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鮮やかな赤色が印象的な根菜「ビーツ」。砂糖の原料になるテンサイ(ビート)の仲間で、北海道内で生産がじわりと広がっています。
ビーツ生産広がる 奇跡の野菜、アスリートフードの称号 天然着色料にもなるマルチ食品
東欧の伝統料理「ボルシチ」の材料として知られていますが、最近では栄養価の高い健康食品として注目を集め、天然の食用色素としても使われるなど用途も拡大しています。糖度がより高く、カラフルな種類も登場しています。道産ビーツの今を探りました。
糖度しっかり、手間も少なめ
生産を始めたのは6年前。風が強い立地で、栽培に適した作物がないか石狩市に相談したところ、ビーツを紹介されました。サムリブ高岡では6月初旬に苗を植え、大人のこぶし2個分ほどの大きさになる10月ごろに収穫しています。
インターネット販売が好調で、全国の飲食店関係者らから注文があり、300キロ以上販売したこともあるそうです。藤岡理事長は「ビーツは草取りをしっかりすれば育つので栽培しやすい。健康志向の高まりから買い求める人が増えています」と手応えを語ります。
ビーツの生産は道内で少しずつ広がっています。北海道農産振興課によると道内の作付面積は、記録がある2020年度の2ヘクタールから、22年度には6ヘクタールに増えました。主に石狩市や帯広市、上川管内愛別町、後志管内真狩村で作られています。農家にとっては作業にかかる手間が比較的少なく、他の野菜の成長も妨げないという特徴があるそうです。
サラダ、肉巻き、カツレツ…食べ方多彩
ビーツは地中海沿岸が原産で、紀元前から薬用として利用されていました。欧州や北アフリカ、中東などでよく食べられています。日本に伝わったのは江戸時代。初めは観賞用として栽培されていたそうです。近年は北海道内や茨城県、熊本県で栽培が増えています。
道内でビーツの販売に力を入れているのは、札幌市中央区宮の森のスーパー「フーズバラエティすぎはら」です。ビーツの食べ方を知ってもらおうと、レシピ本「ビーツ!ビーツ!ビーツ!」(山崎志保著)を2年前から店に並べています。
サラダや肉巻き、カツレツなど一般家庭で作ることができる簡単なレシピが紹介され、「食べ方が分かったことで売り上げがぐっと伸びた」(杉原俊明店長)といいます。今まで約60冊売れました。
すぎはらが販売を始めたのは15年前です。当時は十勝の農家からビーツ1種類を月に約5キロ仕入れていました。現在は取り扱うビーツが3種類に増え、赤色だけでなく黄色やピンクといった色鮮やかなビーツも並べています。産地も数年前から真狩村、石狩市などに広がり、取り扱う量は月20キロ以上になりました。
10月下旬には道産ビーツが100グラム当たり120円で売られていました。単純比較は難しいですが、同じく店頭に並ぶ100グラム50円台の紅ダイコンなどと比べると高級品と呼べる値段です。ただ、味や栄養価が評価され、健康意識の高い女性客を中心に購入されています。
店頭に並べるビーツの加工品の売り上げも伸びています。売れ筋は上川管内愛別町産のビーツをゆでてカットし、パックに詰めた「ビーツパック」や、渡島管内七飯町産のビーツとガゴメコンブを使ったドレッシング。手軽にビーツを食べられるのが魅力です。
美肌効果、生活習慣病予防にも
ビーツは健康食品としても注目を集めています。独特の赤色はベタレイン色素で構成されており、抗酸化作用で美肌効果や生活習慣病予防が期待できるとされています。また造血に作用する葉酸や、食物繊維なども豊富です。
世界的にはアスリートフードとしても認知されています。素早く栄養を摂取できる手法としてビーツを使った飲料も開発されています。ビーツの栄養に詳しい札幌保健医療大学保健医療学部の松川典子准教授は「ビーツに含まれる硝酸塩には血管拡張作用があると報告されており、マラソンなど主に持久系競技のアスリートが運動する前に摂取することで、競技力向上や試合後の疲労回復効果があるとの見解が得られている」と話します。
松川准教授はビーツの成分研究の傍ら、ビーツの消費拡大を目指し、大学サークル「あかビートLabo(ラボ)」を通じて学生とレシピを考えたり、料理を作って子ども食堂に提供したりしています。また、道内の大学教員らと「赤ビート研究会」を設立して商品開発にも取り組んでいます。
農薬の少なさが足かせに
生産の拡大には課題もあります。ホクレンでビーツ栽培の促進に関わる野菜果実花き課の島田薫課長補佐は、「ビーツの生産が拡大しない一番の理由は、マイナーな作物であるために使用できる除草剤や殺虫剤などの農薬が少ないことだ」と話します。
法律に基づき、作物ごとに使える農薬が決められています。農薬を道など公的機関に登録するには、研究機関などでの実証試験期間も含めて3年以上必要です。ホクレンはビーツ用の除草剤を新たに農薬として登録すべく、動いています。登録されれば雑草に栄養をとられたり、虫が寄ってきたりすることを防げるので、まとまった規模の生産がしやすくなり、収量もアップすると期待されています。
着色料としての活用法も
ビーツの鮮やかな赤色に活路を見いだす動きもあります。今年から全量を食用色素などをつくる企業に卸す考えだといいます。島田課長補佐は「工業的に合成されたものではない天然の着色料として色素メーカーなどから引き合いが増えている」と話します。札幌保健医療大学の松川准教授は「ベタレインは少量で鮮やかなピンク色を出すことができる。ただ熱に弱いため、できあがった食品に後から混ぜるなどの工夫が必要」と話していました。
「奇跡の野菜」「食べる輸血」とも称されるビーツ。今はまだスーパーで目にする機会は少ないですが、サラダや加工品など多様な食べ方が広がっており、着色料としての活用も期待されます。北海道民にとって身近な存在になる日もそう遠くないかもしれません。
(北海道新聞 Dセレクト)
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