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なまらあちこち北海道|ヒグマのフンから論文・知床

北海道

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2千個を拾い集めて分かったこと

温暖化が進めば、里に下りる

それは「温暖化が進めば、人里に降りるクマがさらに増える可能性がある」
ということです。

世界自然遺産の知床半島に生息するヒグマが、餌が不足しがちな晩夏から初秋にかけ、標高千メートル前後の高山帯と海岸を行き来し、高山帯に生えるハイマツの実とサケ類を食べて栄養状態を維持していることが、北大大学院獣医学研究院の下鶴倫人准教授(42)の調査で分かりました。

ハイマツとサケ類の不足が重なった場合、市街地への出没が急増することも判明しました。下鶴准教授は
「温暖化で知床の生態系が変化すれば、餌を求めて人里に降りるクマがさらに増える可能性がある」と指摘しています。

調査は、ヒグマが海岸でサケ類を捕食できる環境が残っている知床半島先端部のオホーツク管内斜里町ルシャ地区で実施したものです。下鶴准教授は2012年から18年の7年間で、計約2千個のふんを拾い集め、食べていたものを分析したものです。

その結果、春から7月ごろまではフキなどの草類を主に食べているが、餌が不足する8月はハイマツの実、9月前半はサケ類がそれぞれ食べた餌の3~5割を占め、重要な栄養源となっていることが分かりました。9月後半はドングリと果物で8割を占めていたとのことです。

この調査では、知床半島を含む斜里町と根室管内羅臼、標津両町には約400頭のヒグマがすんでいることが判明しています。今回の調査は、夏場に山と海の両方で餌を確保できる知床ならではの自然環境が、世界的にも珍しい高い密度でのクマの生息を可能にしていることを裏付ける結果となりました。

知床半島では12年と15年に斜里町の市街地などにヒグマが相次いで出没し、例年の2倍の約70頭が捕殺されたことがあります。今回の調査では、両年のクマのふんにはハイマツの実がほとんど含まれておらず、サケ類も例年に比べて極端に少なかったことも分かりました。

下鶴准教授は「ハイマツの実とサケ類の不足が重なった結果、市街地へのヒグマの“大量出没”が起きた可能性が高い」と分析しています。つまり、ハイマツはヒグマを山にとどめておくためにも重要な存在だとし、「地球温暖化の影響でハイマツやサケ類が減った場合、栄養不足で繁殖できないヒグマが増え、個体群を維持できなくなるかもしれない」と懸念しています。

食性変化セミ幼虫捕食

一方、知床半島のヒグマの食性を巡っては、オホーツク管内斜里町岩尾別地区のカラマツ林で、土を掘り返してセミの幼虫を食べている個体がいることも分かっています。

北大大学院環境科学院博士課程3年の富田幹次さん(27)がフンの内容物などから調べ、8月にスウェーデンの野生生物学誌電子版に論文を発表した。富田さんによると、ヒグマがセミの幼虫を餌にしていることが確認された例は過去にないということです。

富田さんは2018年5~7月に岩尾別地区のヒグマのふん60個を採取して内容物を分析しています。その結果、フキなどの草類が約49%、アリが25%、コエゾゼミ幼虫が14%だったことが報告されています。
しかし、1980年代に行われた同様の調査ではフキなどの草類が93%を占めており、セミの幼虫はゼロでした。

セミの幼虫を食べるクマの姿は2000年ごろから目撃されるようになり、知床でも岩尾別地区に生息するヒグマにだけ見られる行動ということです。カラマツの人工林は地表への日当たりが良いため、セミの生息数は天然林に比べ約10倍という実態があります。人工林に設置したカメラでクマが地面を掘って幼虫を食べる様子も撮影されました。

富田さんは「特に母子グマが土を掘り返していることが多い。この地域で暮らすクマの間で受け継がれている行動なのかもしれない」とみています。

知床半島では2000年ごろからエゾシカが爆発的に増加した経緯があり、富田さんは「シカが草を食べ尽くしたため、クマの食性が変化し、普通は食べないセミの幼虫を食べるようになったのではないか」と推測しています。

人間界に下りてくると、住民の生活が脅かされることになり、その結果「駆除」される個体数も増えることにつながります。ちょっと心配なことです。

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(参考:北海道新聞ニュース電子版、知床財団HP)

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