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若手建築家の登竜門といえるUnder 35 Architects exhibitionにファイナリストとして出展したり、日本建築学会作品選集新人賞やJIA北海道建築大賞を受賞するなど、独立直後から注目を集め続ける建築家・宮城島 崇人さん。
宙に浮かんだ小舟のような不思議な建物。北海道出身の若手建築家による話題作をチェック

Daici Ano
宮城島さんが標榜するのが「建築で環境をつくる」こと。大きな環境に対して小さな建築で働きかけ、環境全体を引き上げていく建築を目指しています。 札幌市を拠点に住宅や商業施設、酒蔵、牧場の施設まで幅広いプロジェクトの設計を手掛けており、住宅の設計では、北国の厳しい気候でも豊かな暮らしを享受できる空間のあり方を模索。どのような環境にも真摯に向き合う宮城島さんの設計哲学やその背景について探ります。
実例/公園に面してキッチン棟を増築した家
札幌市の緑豊かな公園。その一角に小さな船が浮かんだような不思議な建物があります。 よく見ると、それは裏側の住宅に取り付いて設置されています。
「O project」のオーナーは、都心近郊でありながら自然豊かな環境を気に入ってこの土地を購入。しかし、もともと立っていた家は2×4工法(枠組壁工法)による建物で窓が小さく、公園に対して閉じたつくりでした。 「2×4工法は気密性と断熱性に優れるため道内に多く立っていますが、壁式工法のため壁に大きな穴を開けることが難しく、開放的に改修するのにも限界がありました。
オーナーは仕事のために広いキッチンを希望していたことから、公園側にあった小さな庭の部分にキッチン棟を増築することを提案しました」と宮城島さん。 キッチン棟は2本のコンクリートの柱が空間を支えています。外周に木製建具の窓を巡らせることで緑と光を取り込み、公園と既存住宅を緩やかにつなげました。

Daici Ano
2×4工法は壁が多く暗くなりがちですが、光にあふれたキッチン棟との対比によって、ほの暗さがかえって空間の落ち着きとなり、魅力として引き出されました。約30㎡という小さな空間の増築により、住まい全体が生まれ変わったのです。
「北海道のように季節によって気候や気温の差が激しい地域では、1つの建築ですべてを解決するのは難しい。性質の異なる居場所を隣接させることで、夏も冬も楽しめる住宅ができると考えました」 キッチン棟は床を地面から1・2m上げています。それは、公園との心地よい距離感を図ると同時に、冬期の積雪を考慮したものでもあります。
「札幌は冬に50㎝以上積雪して、地面の高さが上がるんです。夏は気にならなかった家の庇が冬になると近くなったり、窓から室内をのぞき込めたりする。そんなふうに北国では季節によって感じ方も変わるんです」
設計哲学/環境に“アクション”する建築
1つの建築が周囲に影響を及ぼし、環境全体が美しく変化していく。宮城島さんは、そんな「環境をつくる建築」を目指していると話します。その背景には、生まれ育った釧路という環境が影響しているようです。
「釧路は夏に霧が出るなど自然現象が多く、建物のなかというより、環境のなかで暮らした感覚がありました。大きなものに包まれていると居心地がよく、自分もそういうものをつくりたいと思っています。 ただ環境全体をデザインすることはできないので、それを構成する建築を変えていくしかありません。
小さな建築が広大な環境に働き掛けるには、デザインの濃度や発想、工夫が問われると考えています」 環境に対しても、受動的な姿勢ではありません。 「楽器は弾いてみないとわからないように、設計も同じ。建築で能動的にアクションを起こし、それに対して環境がどうリアクションしてくれるかなんです」
あるときは環境にのみ込まれない強さを、またあるときは環境を引き立てる謙虚さが必要だと話します。 宮城島さんのお仕事には、サラブレッド牧場の住宅や施設、古い酒蔵の建築群のマスタープランや改修・建て替えなど、長い期間をかけて建築群を少しずつ設計・改修するプロジェクトが多いのも、彼が俯瞰した視点を得意とするから。 環境という広大なものを想像しながら、建築という小さな点を打つ。そうして、少しずつ美しい風景がつくられていくのでしょう。
(YAHOO JAPANニュース)
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