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なまらあちこち北海道|イギリスで咲く、松前桜

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松前は歴史的に外国との交易がありましたが、イギリスとのつながり、こんなところにもありました。

英国で松前桜が続々満開 心つかんだのはなぜ? ルーツをたどると

 「チョコレートアイス」とおいしそうな名前を聞いて何を想像しますか。北海道生まれの松前桜「松前富貴(ふうき)」の英国での愛称です。松前桜の穂木が英国に渡って30年。56品種が根付き、各地で次々と満開を迎えています。5月5日には、英南東部で「松前桜園」造りを進める英貴族の関係者ら一行が松前入り。

松前桜はなぜ英国人の心をつかんだのでしょうか。人気のルーツを探るため、英国の松前桜の“故郷”を訪ねました。(ロンドン駐在 内本智子)

英国最大のサクラ収集

 56種の松前桜が全てそろう桜園があると聞き、4月中旬、英南東部ケント州ニューイントンへ向かいました。駅で待ち合わせた園芸家クリス・レーンさん(74)が案内してくれたのは、自身が営む3・5ヘクタールの広大なウィッチヘーゼル園芸場。松前桜を含め全部で430種のサクラを収集し、コレクション数は英国最大だそうです。
(注:松前の桜は450種類、1万本と言われています)
英ニューイントンのクリス・レーンさんの園芸場で見ごろを迎えた紅豊=4月17日

英ニューイントンのクリス・レーンさんの園芸場で見ごろを迎えた紅豊=4月17日

松前紅紫=4月17日

松前紅紫=4月17日

松前花山院=4月17日

松前花山院=4月17日

 その一角に、松前桜は1種1本ずつ真っすぐに植えられていました。いくつかはちょうど見ごろです。青空に映える鮮やかなピンクや、小ぶりでかれんな白い花-。花びらの色や大きさ、形や数がそれぞれ違い、どれも個性的で美しく咲き誇っていました。まだつぼみが固く締まり、開花を待つ遅咲きの品種もありました。

ブロンズ色の葉も観賞

 「これが富貴。私のお気に入りの一つで、英国でも人気なんです」と、レーンさんは白っぽい大きな花びらのサクラの前で立ち止まりました。「つぼみはピンクで、半八重の白い大輪の花を咲かせます。若葉もとても魅力的」と話し、笑みがこぼれました。
100種類以上のサクラの新品種を開発し、日英友好を願い英国に穂木を送った浅利政俊さん=2022年4月、七飯町

100種類以上のサクラの新品種を開発し、日英友好を願い英国に穂木を送った浅利政俊さん

 松前桜は、函館市に近い渡島管内松前町で、同管内七飯町在住のサクラ研究家、浅利政俊さん(92)によって開発された新種のサクラの総称です。小学校教員の傍ら、サクラの研究に取り組み、100種類以上の新品種を作り出しました。オリジナルの松前桜はサクラの名所、松前町の松前公園で観賞することができます。
 チョコレートアイスの愛称は、英国人に覚えやすいよう付けられた商品名。ブロンズ(銅)色の葉に由来するそうです。他にも、松前花笠(はながさ)はピンクパラソル、松前紅玉錦(べにたまにしき)はスプリングスノーなど、英語の商品名が付けられた松前桜が数種類あり、英国では園芸センターなど流通市場で手に入れることができます。

4~5週間見ごろ続く

 でも、レーンさんの園芸場が貴重なのは、一般に出回っていない品種も含め全種がそろうところ。「品種によって開花時期が違うから、長く観賞できるのがいい。天気にもよるけれど、3月の終わりから5月中旬までの間で、4~5週間は楽しめます」といいます。
4月22日は予約制の人数限定で一般公開し、愛好家らが花見を満喫しました。

 レーンさんが松前桜を植えたのは20年ほど前です。56種を一式引き取ってもらうよう、園芸仲間の友人から託されたことが始まりでした。この友人こそ、英国でサクラ研究の第一人者とされるクリス・サンダースさん(79)。英国で松前桜普及のきっかけをつくった人です。ルーツをたどり、英中部のスタフォード州に会いに行きました。

キール大のキャンパスで咲く松前薄重染井(うすがさねそめい)を手にするクリス・サンダースさん。「浅利さんの作品はどれも個性的」という=4月18日

キール大のキャンパスで咲く松前薄重染井(うすがさねそめい)を手にするクリス・サンダースさん。「浅利さんの作品はどれも個性的」という

 「浅利さんの育てた素晴らしいサクラの数々を初めて見たのは、日本花の会が出版した専門書。1980年代後半のことです」。スタフォード州にあるキール大学のキャンパス。サンダースさんは、見ごろを迎えた松前桜の北鵬(ほくほう)や松前小雪を見渡す樹木園のベンチでそう語り始めました。

王立公園の庭園責任者に提案

 当時サンダースさんはスタフォード近郊の大手園芸店で勤務していました。まだ英国になかった新品種のサクラに心を奪われ、92年の晩夏、友人のジョン・ボンドさん(故人)に導入を勧めました。
 ボンドさんはロンドン郊外ウィンザーの王立公園「グレートパーク」を管理する会社の庭園責任者で、サクラに造詣が深く、サクラに関する日本での講演から帰ってきたばかり。日本のサクラ関係者との人脈を生かせると思ったのです。
 ボンドさんも賛成。品種選びを任されたサンダースさんは、専門書で紹介されていた中から25~30種の松前桜を選び、ボンドさんに伝えました。浅利さんは1人で多くの新品種を開発していたので、まとめて依頼しやすいと考えたからです。数カ月たち、すっかり忘れかけていた93年2月のある日、オフィスの電話が鳴りました。
1993年2月に英国に届いた浅利さんからの穂木に付けられていた名前のラベル。1種類ずつカタカナとローマ字で丁寧に手書きされていて、サンダースさんは今も大切に保管している(サンダースさん提供)

1993年2月に英国に届いた浅利さんからの穂木に付けられていた名前のラベル。
1種類ずつカタカナとローマ字で丁寧に手書きされていて、サンダースさんは今も大切に保管している
(サンダースさん提供)

「日英友好」の架け橋願い

 「日本から穂木の大きな箱が届いた。どうしたらいいんだ」。ボンドさんからでした。園芸店に送ってもらい、開けると、30種ではなく58種もの穂木が入っていました。ボンドさんから購入依頼の手紙を受け取った浅利さんが料金を受け取らず無償で送ったもの。1種ずつ、カタカナとローマ字で丁寧に手書きされたラベルが付けられていました。サンダースさんは今でもラベルを大切に保管しています。

 浅利さんはサクラ研究と同時に、第2次世界大戦中の道南の史実発掘にも従事。多くの英国人捕虜らが過酷な労働によって命を落とした函館俘虜(ふりょ)収容所の歴史を掘り起こし、語り継ぐ活動に取り組んできました。サクラを通じ、英国の遺族に遺憾の気持ちを表し、日英友好を深める架け橋となってほしい、との願いを込めたのでした。

広がるコレクションの輪

 サンダースさんは浅利さんからの穂木を接ぎ木し、58種のうち56種で増殖に成功しました。王立公園に全種一式を送ったほか、約10種を選んで商品化。英国内での普及につながりました。その後、商品化しなかった品種も含め全種を園芸店で育てていましたが、2002年に自身が退職する時、松前桜の世話をする人がいなくなることを心配し、全種の育成をレーンさんに託したというわけです。

キール大で見ごろを迎えた松前桜。広大なキャンパスを彩っている=4月18日

キール大で見ごろを迎えた松前桜。広大なキャンパスを彩っている=4月18日

 コレクションの輪はさらに広がっています。松前桜を含む240種を植え「サクラの大学」として知られるキール大もその一つ。ロンドン南西部の王立植物園キューガーデンでも松前桜を楽しめます。英南東部サフォーク州グレート・グルマムでは、英貴族クランブルック家の次期伯爵、ジェイソン・ゲイソンハーディ卿が自身の土地に「松前桜園」を造る計画を進めています。
 きっかけをつくったサンダースさんは「こんな美しいサクラが英国で広まり、多くの人が楽しめるようになったことがうれしい」と喜び、「浅利さんがサクラのため、日英友好のために取り組んできたことに最大の敬意を表したい」と話していました。
(参考:北海道新聞デジタル発)
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