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陸上自衛隊北部方面隊(総監部・札幌)が自衛隊の任務や隊員の日常を紹介する動画の作成に力を入れています。中には再生回数が10万回を超えるものも。
YouTubeでバズらせたい! 再生回数は最多13万回 陸自北部方面隊がアピールするのは「ふつうの人」

陸自北部方面が力を入れる動画の撮影。「バズる」動画を通し、
身近な存在に感じてもらう狙いがある
しかし、その内容は決して軍事マニアが好むような爆撃や射撃の映像ではありません。どんな動画が「バズって」いるのでしょうか。そして、自衛隊の狙いとは―。
「リラックス、リラックス。ありのままに話してくれれば大丈夫」。昨年11月中旬の昼下がり、陸自丘珠駐屯地(札幌市東区)で、ある撮影が始まりました。三脚に固定されたビデオカメラの前に立つ隊員に、北部方面総監部広報室長の高田幸佑さん(48)が笑顔で質問を投げかけます。
高田さん「航空操縦士になってよかったことは?」
隊員「航空機を操縦して空中に上がるのはなかなかできない経験ですし、やっぱり、お給料はいいですよね」
高田さん「あはは」
隊員「航空機を操縦して空中に上がるのはなかなかできない経験ですし、やっぱり、お給料はいいですよね」
高田さん「あはは」
自衛隊の厳格なイメージとは対照的に、和やかな雰囲気で行われているのは、北部方面隊の公式YouTubeチャンネルの撮影です。この日は航空操縦士や管制官、通訳など、各部隊で専門的な技術や知識のある隊員を紹介する「自衛隊のスペシャリスト」シリーズの収録でした。
スペシャリスト
スペシャリストの一人としてインタビューを受けたのは、第11飛行隊航空操縦士の関根陽太さん(26)。幹部候補生の訓練中に航空機を見て憧れを抱き、操縦士を志したそうです。現在は、飛行訓練や訓練計画の立案を中心に業務に励んでいます。
撮影の序盤では緊張した面持ちで高田さんの質問に答えていましたが、「飛んでいるときの気分はどうですか」と尋ねられると、「最初は恐怖を感じることもありましたが、自分の操縦で空を飛ぶのは言葉にできないくらい気持ちいいです」と、すらすらと答えました。
無事、撮影を終えた関根さん。「高田さんが話しやすい雰囲気を作ってくれたので、楽しく話すことができました。自衛隊は厳しいというイメージがあるかもしれませんが、親しみを持ってもらえればうれしいです」と振り返りました。
北部方面隊が動画公開に注力する背景には、深刻化する隊員不足があります。防衛省によると、自衛官などの応募者数は2023年度に6万3849人と過去10年間で約4割減る一方、中途退職者も増加しています。
動画には広く国民、道民に自衛隊の活動を知ってもらい、就職先や進路を考える若い世代に興味を持ってもらう狙いがあります。
北部方面隊はこれまでも多くの動画を公開していましたが、高田さんが広報室長に就任した2023年3月「見てもらうターゲットを絞り、費用対効果の高い取り組みにしよう」と広報戦略を見直しました。

「若者に見てもらえる映像を発信したい」。
自ら作成した動画の台本を手に強調する高田さん
キーワードは二つ。「ショート動画」と「シリーズ化」です。公式YouTubeチャンネルで公開していた5~10分程度のロングバージョンに加え、X(旧ツイッター)に投稿できる140秒以内のショートバージョンの動画を作り始めました。
また「自衛隊のスペシャリスト」のように、新人隊員の訓練に密着する「新隊員教育シリーズ」や、国際訓練や海外派遣の様子を紹介する「北部方面隊国際活動等シリーズ」など、同じテーマでまとめて複数の動画を公開することとしました。
これまで最多の再生回数13万回を超えたのは2024年11月に公開したばかりの「自衛隊のスペシャリスト」第1弾の通訳です。北部方面総監部情報部で通訳をする女性隊員に、入隊してからどのように英語力を鍛え、どんな活躍をしているのか、仕事のやりがいなどをインタビューしました。
また、24年4月の「新隊員教育シリーズ 入隊編」も12万回以上再生されました。入隊間もない新隊員に志望動機や入隊までに準備したことなどを聞いたほか、入隊式に参加した隊員の父母の声も聞きました。高田さんは「若者の親目線で見てもらえる動画に仕立てた」と狙いを語ります。
防衛省は人材確保に向け、給与や手当、生活環境の見直しを進めています。ただ自衛官のなり手不足の背景には、少子化で入隊適齢期の若者が減ったことや、過酷な活動のイメージ、そして近年発覚したハラスメント問題など複合的な要因があります。
民間企業なども人手不足に苦しむ中、人材確保は容易ではありません。ただ高田さんは語ります。「自衛隊は何もレンジャー部隊や災害派遣の際にだけ活躍する『スーパーマン』ではありません。『普通の人』であることを動画を通して伝えていきたいと思います」と。
企画立案から台本、絵コンテ作りからインタビュアーまで担当する高田さんはこれからも飾った言葉ではなく、視聴者の心に響く隊員の本音や素顔を伝えていくつもりだそうです。
(参考:北海道新聞メールサービス)
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