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おにぎりや弁当など、日本人の食生活に欠かせないノリ。主に北海道の日本海沿岸の岩場で漁業者が摘み取っている天然の「岩ノリ」を知っていますか。スーパーなどで気軽に手に入る養殖物と違い、市場に多くは出回らないため「幻のノリ」と言われています。
10枚で1万円!?幻の岩ノリ 北海道・松前のご当地グルメ 人気急上昇<北の食☆トレンド>
特に厳冬期の岩ノリは「寒ノリ」とも呼ばれ、風味がより豊か。近年はテレビや交流サイト(SNS)で紹介される機会もあり、注目度は急上昇。知る人ぞ知るご当地グルメの枠を越え、高値がつくことも珍しくないといいます。

渡島管内松前町の白神地区で生産される岩ノリ
滑りやすい磯辺の岩ノリ 摘み取りは重労働
2月上旬、北海道最南端に位置する渡島管内松前町の白神地区。日本海の荒波が打ち寄せる磯辺で、漁業者が腰をかがめてカギと呼んでいるドライバーぐらいの大きさの道具を使って、岩ノリを剝がしていました。松前さくら漁協で白神実行組合長を務める鳴海政樹さん(70)。「磯辺には岩ノリやアオサが一面に付いていて、すごく滑りやすい。海に落ちて亡くなった人もいるんだ。寒いから服を着込む分、一度落ちると泳ぎにくい」と話し、足取りは慎重です。

渡島管内松前町の滑りやすい岩場で腰をかがめて岩ノリを採る鳴海政樹さん
なぜ、寒い時期に作業するのでしょうか。鳴海さんは「冬の厳しい寒さと強い潮風が、ノリの風味を豊かにするんだ。この時期じゃないと、黒々とした立派なノリに仕上げられない」と力を込めました。
岩ノリは暑さに弱く、果胞子(受精卵に相当)は海岸や海底にある貝殻の内側にカビのように潜り込んで夏を過ごします。秋の終わり、胞子を多量につくると、波やしぶきで岩場まで運ばれ、冬に繁茂。人の指ほどの大きさに育つと収穫されます。
磯辺に付いた岩ノリは時間がたったり、3~4月ごろに海水温が上がったりすると、黒色からやや赤みを帯びた色に変わります。こうなると「春ノリ」などと呼ばれ、1~2月の寒ノリと比べると、若干風味が弱めになるそうです。
松前の岩ノリは江戸時代からの特産品
松前町は道内有数の岩ノリ産地です。江戸時代からの特産品で、今も町内の漁業者の大半が、漁協から許可を得て岩ノリを摘み取っています。特に白神地区は、北海道最南端の白神岬があり、日本海と津軽海峡の風波がぶつかるポイントです。強い荒波や潮風に岩ノリがもまれ、さらされ、一段と風味豊かに育つとされています。
全国でも、岩ノリは日本海沿岸が生育に適しているとされ、島根県などが古くからの産地です。道内では渡島、檜山、後志管内を中心に1~4月にかけて摘み取りと商品化が行われています。
ただ、はっきりとした漁獲量などを示す統計はありません。北海道庁は2007年まで、岩ノリなどノリ類の統計調査を行っており、この年の岩ノリの漁獲量は全道で約2トンありました。ただ、ほとんどの岩ノリは、各漁業者がそれぞれの家庭で家内制手工業のように取り扱っており、全容を把握するのは難しかったそうです。
一般的に食べられている養殖のノリは、農林水産省の統計によると、23年には全国で約20万トン生産されていますが、北海道はゼロです。天然物の割合はごくわずかで、北海道で採れる岩ノリが貴重な存在なのは間違いありません。
手間暇かけて細断、乾燥
岩ノリを製品にするまでの工程やサイズは、各地域で若干異なります。鳴海さんが母親から受け継いだという製造方法を見学させてもらいました。
磯辺で摘んできた岩ノリは、まず機械ですりつぶします。それを包丁で何百回とたたき、さらに細かくしていきます。

包丁で岩ノリをたたくように切り、細かくする鳴海さん
その後、ノリは一度、バケツの水に入れてふやかした上で、すだれに載せた型枠の中に流し込んでいきます。型枠は地域によってサイズが違います。松前町の場合は縦30センチ、横24センチほど。この時、なるべく厚さが均一になるようにするのが、食感の良い乾燥ノリにするポイントだそうです。

岩ノリを規定の型枠に流し込む作業。厚みがなるべく均一になるよう、
熟練の技術が求められる
型枠を外すと、すだれには厚さ5ミリほどもある岩ノリの固まりができました。これをすだれごと網などに据え付けて干して、潮風に当てながら2日間ほどかけて水分を抜いていきます。

厚さが5ミリにもなった手作りの岩ノリ
乾いたノリを剝がしたら、天然の岩ノリにつきものの細かい砂やエビの皮などを手作業で取り除きます。エビが混ざっていると食べた人がアレルギー反応を起こす可能性があるためです。ここまで手間をかけて、ようやく完成です。
鳴海さんによると、10枚作るには、約1時間摘み取った分の岩ノリが必要だといいます。磯辺での作業は月に数回、長くても1日約4時間ほど。波が高くない安全な日に限られます。岩ノリを干す際は、雪が付くとノリに穴が空いて商品価値がなくなります。天気予報の細かい確認も欠かせません。
(参考:北海道新聞 Dセレクト)
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