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なまらあちこち北海道|中心部にシカ出没・札幌市

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札幌中心部シカ出没なぜ 10月目撃相次ぐ 繁殖期、行動活発化

 札幌市中心部でこの秋、エゾシカの目撃が相次いだ。繁殖期を迎えて活動が活発になった複数のシカが中心部に迷い込んだとみられる。突然の出来事に住宅街は一時騒然とし、シカが居座った都心の北大植物園は臨時休業に追い込まれた。出没現場に向かうと、猟銃が使えない市街地では、麻酔を仕込んだ矢による捕獲でもシカが暴れて人にぶつかる恐れがあり、シカが去るのを待つしかない実情があった。

ドンッ、目の前に大きなツノ

 「まさか札幌の都市部にシカが出るなんて」。住宅やマンション、商業施設が立ち並ぶ札幌市中央区宮の森地区に雄シカ1頭が出没し、警察官や市職員が捕獲に追われた10月16日、記者はこんな思いを抱きながら取材に臨んでいた。2年前まで網走支局に勤務し、道東では市街地でのシカ出没は珍しいことではなかったからだ。
 ドンッ-。午後4時10分ごろ、閑静な住宅街に大きな音が響き渡った。住宅の庭から記者の目の前に突然飛び出してきたシカは体長約1・5メートル。頭には立派なツノが生えている。身じろぎせず、こちらをずっと見つめている。「突進されたら、大けがをするかも」と身がすくんだ。
札幌市中央区宮の森の住宅の庭に居座るなどし、住宅街をうろつく雄シカ=16日午後5時ごろ

札幌市中央区宮の森の住宅の庭に居座るなどし、住宅街をうろつく雄シカ

 札幌西署によると、このシカの最初の目撃通報は同日午前6時すぎ、現場は宮の森地区に隣接する中央区北6西28のマンション敷地内だった。だが、警察官が駆けつけた時には既に姿はなかった。
 再び、目撃情報があったのは午後2時45分ごろだった。中央区宮の森地区の住民から「シカが家の庭に居座っている」と110番があり、警察官と市職員計約10人が現場に向かった。「あそこにいるぞ!」。塀で囲まれた場所で安全を確保できると判断し、市の委託業者が麻酔を仕込んだ吹き矢を放った。矢は命中したものの、シカは逆に興奮して走りだし、次から次へと複数の住宅の庭に入り込み、現場は一時騒然となった。
 警察官は付近を歩く住民に「シカが出没しています。急に飛び出すかもしれないので注意して下さい」と懸命に呼びかけた。市や専門家によると、興奮状態のシカに麻酔を打っても、うまく効かないことがあるといい、野生動物の捕獲の難しさを実感した。

14時間にわたり市街地うろつく

 シカはその後も住宅の庭やマンション敷地内に入り込み、午後8時ごろ、円山(225メートル)方向にようやく姿を消した。市などによると、札幌は周辺を山林に囲われ、建物が密集しているため、シカは円山や、西区を貫くように流れる琴似発寒川沿いをつたって住宅地にたどり着いたとみられるという。
 同署にはこの日、「シカを目撃した」との通報が10件あった。同署の川端瑞希地域官は「シカの動きは予測が難しい。発見したら身の安全を確保して通報してほしい」と話した。
 市環境共生担当課によると、札幌市内でも山間部であれば猟銃を使った捕獲ができるが、市街地では禁じられている。麻酔捕獲にも課題がある。麻酔が効いたとしても、シカは麻酔が効くまでの間に暴れてしまうため、吹き矢の使用場所が限られる。同課の担当者は「周囲が壁で囲まれているなどシカが逃げられない場所でしか行えず、住宅街での対応は難しい」とこぼす。
札幌市中央区宮の森の住宅街にシカが出没し、警戒に当たる札幌西署員や市の委託業者=16日午後4時10分ごろ

札幌市中央区宮の森の住宅街にシカが出没し、警戒に当たる札幌西署員や市の委託業者

 札幌市中心部へのシカの出没が特に目立ったのは10月中旬~下旬。道警によると、市内9署(札幌、石狩、北広島の3市、石狩管内当別町)に16~31日に寄せられたシカの目撃通報は186件に上った。
 このうち最多は札幌西署(札幌市西区と中央区の一部)の36件で、札幌北署(札幌市北区、石狩市、石狩管内当別町)が33件、札幌南署(札幌市南区と中央区の一部)が28件と続いた。西区や南区など山林と住宅地が近接している地域での出没が多いことが分かる。道警は例年、シカの目撃通報のデータを集約していないため、比較はできないが、道警幹部は「市街地に複数の個体が相次いで出没したケースは聞いたことがない」と目を丸くする。

北大植物園にも侵入

 24日には札幌市中央区の北大植物園に雄シカ1頭が侵入し、同園は安全確保のため臨時休園を余儀なくされた。韓国から妻と観光に訪れた盧在賢(ノ・ジェヒョン)さん(65)は「妻が花と植物が好きで楽しみにしていたので残念だ」。
 北大植物園は道庁やJR札幌駅にもほど近い場所でもあり、仙台市の30代男性は「札幌は都会だと思っていたが、こんなところにシカが出るなんて」と驚いた様子で話した。
雄シカが侵入し、安全確保のため臨時休園した北大植物園の張り紙を見つめる来場者=24日午後0時30分ごろ(畠中直樹撮影)

雄シカが侵入し、安全確保のため臨時休園した北大植物園の張り紙を見つめる来場者

 同じ個体とみられる雄シカは25日朝、札幌市東区東苗穂1の不動産会社社長山本豊信さん(51)方の庭に入り込んだ。「キツネは出たことがあるが、まさかシカとは。大きなツノが怖い」と山本さん。吹き矢を使うと暴れて二次被害が起きる危険性があると判断し、市職員や札幌東署員が離れた場所から様子を見守ったところ、シカは約8時間にわたって周囲を徘徊(はいかい)した。
 カメラを構えた報道陣も大挙し、シカも心なしか緊張気味に。立ち会った市職員は「シカも『どうしたらいいんだろう』という気持ちかもしれない」とつぶやいた。シカは同日夕、豊平川方向に走り去った。市によると、16日に中央区宮の森に出没したシカとは別の個体とみられるという。
札幌市東区東苗穂の住宅の庭に居座った雄シカ。周囲をうかがうように顔を動かしていた=25日午前10時15分ごろ(石川崇子撮影)

札幌市東区東苗穂の住宅の庭に居座った雄シカ。周囲をうかがうように顔を動かしていた

繁殖期で雄が雌を求め行動活発化

 なぜ、10月に札幌市中心部や住宅街でシカの目撃が相次いだのか。シカの生態を研究する酪農学園大の伊吾田宏正准教授(狩猟管理学)によると、シカの繁殖期のピークは10月下旬~11月上旬で「雄が雌を求めて激しく動き回った結果、市街地に迷い込んだのだろう」と分析する。
 さらに駆除するハンターの減少から、シカの個体数が全道的に増えていることも一因という。道野生動物対策課などによると、道内の2022年度のシカの推定生息数は72万頭で前年度と比べ3万頭増えた。このほか、これまで頭数が少なかった後志、渡島、檜山の南部地域にも3万~18万頭いると推定される。石狩、胆振、日高の中部地域は21万頭で、同1万頭増。札幌市内やその周辺でも生息数が増えているとみられる。

シカが絡む事故、10~12月に多く

 シカの市街地への出没が相次ぐことで、人や車との接触事故の増加が懸念される。道警によると、22年のシカが絡む事故件数は全道で4480件と、6年連続で最多を更新。このうち札幌市を含む石狩管内で昨年発生した事故は491件で、半数の264件が10~12月に集中した。
 今年も1~9月末に前年同期比1・4倍の281件の事故が発生するなど、増加の一途をたどる。伊吾田准教授は「住宅地に出没したシカがパニックになり道路に飛び出すことも考えられ、注意が必要」と話す。実際、10月18~19日は豊平区と白石区で計3件の事故が起きた。シカと人との接触は報告されていないものの、昨年10月末には清田区で雄シカが小学生男児に接触し、男児が軽傷を負っている。

来年以降も出没増加か

 伊吾田准教授によると、生息数が増加しているため来年以降も10~11月にシカが札幌中心部に相次いで出没する可能性があるという。今年10月に出没が相次いだ際は、市民がシカの写真をスマートフォンで撮影し、交流サイト(SNS)に投稿するケースが目立った。伊吾田准教授は「繁殖期のシカは気性が荒く危ないので、珍しくても撮影目的で不用意に近づくのはやめてほしい」と警鐘を鳴らす。市や道警は、市街地でシカを目撃した際はすぐに通報するよう呼び掛けている。
(参考:北海道新聞 会員限定記事)

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