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東京六大学「最後の秋」で先発初勝利 20日のドラフト指名待つ
秋季リーグの開幕戦として明治神宮球場で行われた10日の明大戦。東大の先発マウンドには井沢さんが立っていました。東大のエースナンバーではないものの、自身が選んだ背番号は、好きな選手に挙げるダルビッシュ有さん(36)=米大リーグ・パドレス=がプロ野球日本ハム時代につけていたのと同じ「11」。
140キロ超の直球と130キロ台のカットボールを軸に、スライダーやカーブを交えた投球で、春季リーグを制した強力打線を相手に一歩も引かず、七回途中まで3失点と粘って3-3の引き分けに持ち込みました。
8日付でプロ志望届を提出してから初めての公式戦。「春までと違い、ストライク先行で打たせて取る投球ができ、良いテンポで投げられた」と手応えを口にしました。ただ、11、12日は明大に連敗し、チームが目標とする最下位脱出に必要な勝ち点獲得はならず。
自身も12日の先発登板では初回に3点本塁打を浴びるなど6回6失点(自責点5)と苦しみ、「甘く入った1球をしっかり捉えてくるのは明治らしい。細かいコントロールの精度を上げていきたい」と話すように課題が残りました。
1年時にエースに抜擢
180センチ、83キロと堂々とした体格の井沢さんは、1年時の2019年シーズン終了後に監督に就任したOBで元プロの井手峻さん(78)に抜てきされ、2年の春季リーグから主戦としてフル回転しています。
22年の春季リーグまで通算133回3分の1を投げており、これは東京六大学リーグの現役選手中最多。中心選手として活躍していることがわかります。
かつてプロ野球中日の球団代表も務め、多くの選手を見てきた井手さんは「体が大きく、強さもある。就任当時、投手が20~30人はいたが、見るからにこいつが一番強いなという感じがした」と振り返ります。
「東大の歴代の中でも相当良い投手なのではないか」。こう評するのは、捕手として井沢さんとバッテリーを組む、主将の松岡泰希さん(22)=教育学部4年=です。全国の進学校から部員が集まりますが、他の5大学のような野球強豪校の出身者はほとんどいません。
松岡さんは解説します。「今まで野球をやってきた環境や、どれだけちゃんと野球をやってきたかにもよるが、東大の選手はボールを扱うのが苦手。他大学の選手が10球のうち8球ぐらい、思った通りに投げられるとすれば、うちは3球か4球ぐらい。でも井沢は(他大学の選手と同様に)ボールの扱いがうまい」。2000年夏の甲子園に出場している札南高での野球経験が、エースの地位を確立する源泉となっています。
東大E判定からのスタート
札幌青葉小1年時に地元のチームで野球を始め、札幌青葉中では部活動で軟式野球をやっていました。高校3年の夏まで、東大受験は考えたこともなかったといいます。
札南高のエースとして16年秋、17年春の全道大会に出場しましたが、3年だった17年夏は札幌支部代表決定戦で、前年夏の甲子園で準優勝したメンバーが多く残る北海高に5本塁打を浴びて完敗。当時コーチで、札南高が甲子園に出場した時の主将だった田畑広樹さん(40)=現監督=は井沢さんの進路の相談に乗るうち「まだ、やりきっていないのではないか」と、野球へのさらなる情熱を感じました。そして、甲子園で活躍した打者と対戦することができる場として、東京六大学の東大を勧めました。
井沢さんは夏休み中に東大の練習会に参加し、それまで漠然としていた進路のイメージが一気に明確になったといいます。直後の模試では最低のE判定からのスタートでしたが、ほとんど運動もせず打ち込んだ1日12時間の猛勉強が実り、1浪の末に合格。入学後の1年間は、アスリートに戻るための体づくりに費やしました。
2年からリーグ戦で登板するようになり感じたのは、他大学の打者のレベルの高さでした。「高校野球と比べると、基本的に空振りはしないし、ボール球も振らない。簡単にアウトが取れない」。それでも、対戦を重ねるうち打者の特徴もわかり「自分がしっかり投げきれば抑えられる」と自信を深めていきます。
以前は球威不足から、際どいコースを狙う投球で四球を出し、球数が増えて自滅することがありましたが、4年になってから本格的に取り組む体幹トレーニングなどにより球速が増し、直球は最速144キロに。この秋は「球威でファウルを打たせられるようになった。追い込むまでは、ストライクゾーンで勝負できるようになった」と進化を実感しています。
田畑さんも「高校時代は頭脳や感性を生かしながら投球している感じだったが、今は球速も上がりスケールアップした」と目を細めます。
3年春の法大2回戦。八回から3番手で登板し2回無失点で試合を締め、東大として17年秋から続いていたリーグ戦の連敗を64で止めました。3年秋の立大2回戦は、六回途中からのロングリリーフで3回3分の2を無失点と好投する間に打線が逆転し、自身初の勝利投手となりました。
チームの2度の勝利はいずれも、先発した第1戦では勝てず、中継ぎ待機した翌日の試合でつかんだものでした。4年春は未勝利で、先発した試合での勝利に飢えていました。
この目標は、9月17日の慶大1回戦で実現しました。被安打6、5四死球で毎回のように走者を背負いながらも要所を締める粘りの投球で、6回を犠飛とソロ本塁打による2失点に抑え、勝ち投手の権利を持って降板。チームは4-3で逃げ切りました。「先発した試合で勝つのは一つの目標だった。これまで第1戦で勝てていなかったので、すごくうれしい」と素直に喜びを表現しました。
プロ志望届を提出
8月下旬には3年ぶりに開催された東京六大学のオールスター戦(松山)にも出場し、1回を無失点に抑えるなど、チームの顔として活躍しています。秋季リーグの開幕直前には、さらに上の舞台で野球を続けたいと、東大では17年に投手として日本ハムにドラフト7位指名された宮台康平さん(27)=現ヤクルト=以来となるプロ志望届を提出。
10月20日のプロ野球ドラフト会議を待ちます。プロ入りに望みをかけ、就職活動はしていないという井沢さんは「提出することにハードルはないし、自分の中で大きな意識の変化はない。最下位脱出に向け全力で投げるだけです」と自然体を強調しています。
好投して結果を出すことが未来を切り開くことにつながると信じて、エースは腕を振り続けます。
頑張れ井沢さん!
(参考:北海道新聞電子版)
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