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会社勤めの人に定年退職があるように、ベテラン主婦らを長年の家族の食事づくりから解放する「調理定年」という概念がシニア世代に広がりつつあります。総菜や冷凍食品などを上手に活用し、手間が掛かる調理の頻度は抑えようという考えからです。
家族の食事づくりから解放 シニアに広がる「調理定年」 惣菜活用で脱・手料理
「底冷えする朝の台所に立つと『ああ、ご飯を作るのをやめたい』と思っていた」。1年前に「調理定年」を取り入れた札幌市西区の自営業田川瑞枝さん(62)はそう振り返る。
定年退職した夫(62)と2人分の食事を用意する日々。「栄養のあるものを作らなければ」というプレッシャーと、「いつまで作り続けるのだろう」という漠然とした不安を感じていた。そんな時、交流サイト(SNS)で調理定年の存在を知り「私のための言葉だ」と思った。
調理定年は、東京家政大学の樋口恵子名誉教授が提唱した概念だ。家族の食を支えてきた人が高齢で体力の衰えを感じたら、無理して手作りにこだわらずに、外食や市販の総菜などを上手に活用することを勧めている。
以前は台所に毎日3時間以上立っていたが、今は調理器具のスイッチを入れるだけ。空いた時間は、仕事や英語学習に充てている。「手間暇かけなくても十分おいしい。簡単なので夫が台所に立つ機会も増え、食事の時間が楽しくなった」
コープさっぽろ(札幌)はこうした高齢世帯の食生活に対する意識の変化に着目し、総菜や弁当の販売に力を入れる。
農産、畜産、水産の生鮮3部門で取り扱う食材を店内で調理し、出来たての総菜を販売する「大総菜化プロジェクト」を2020年に開始。道内83店舗で現在展開する。

コープさっぽろの鈴木裕子商品本部長は「今後も総菜や即食系商品の需要は伸びる。電子レンジ調理商品や健康志向の総菜などを開発していきたい」と意気込む。
博報堂生活総合研究所(東京)が昨年、20~69歳の男女1500人に「料理をするのが気持ち的に面倒になり、作らなくなる年齢」を聞いたところ、回答の平均は56歳5カ月だった。「料理をするのが体力的につらくなり、作らなくなる年齢」は平均63歳1カ月で、いずれも仕事の定年時期と近かった。
これとは別の男女2510人を対象にした意識調査では「料理を作ることが好きな方だ」と答えた人の割合が1998年の37.8%から、2024年は31%に減少。特に50代女性は54.5%から36.5%と大幅に減った。

同研究所の夏山明美上級研究員は「50代女性は『夫は仕事、妻は家事』との考えを持つ人も多い。義務感から『料理をしなければ』という重圧を受け、料理好きが減ったのではないか」と分析。手料理の頻度を減らすことに後ろめたさを感じる人に「調理済み食品をアレンジするなど、少し手間を加えることで負担も少なく、『調理定年』への心理的ハードルも下げられる」と助言している。
(参考:北海道新聞有料記事)
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