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なまらあちこち北海道|ゆるくねえな、ススキノ交番の夜・札幌

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北海道一の歓楽街・ススキノに賑わいが戻っています。しかし、それと同時にトラブルも増え続け、薄野交番に勤める署員の人たちも忙しくなっています。今回はそんな薄野交番のある夜のレポートです。

眠らぬ薄野交番ルポ にぎわい戻り始めた歓楽街の今は

今年3月に新築された薄野交番

今年3月に新築された薄野交番

 

指示は1回で聞き取れ!

8月下旬の午後8時、札幌市中央区南4西3の薄野交番。迷惑な客引き行為が行われているとの通報を受け、上司に行き先を聞き直した署員にげきが飛びました。

財布やスマートフォンの紛失や拾得、飲食店でのツケ未払い、タクシーの乗客と運転手のもめ事(もめ)、迷惑駐車(めいちゅう)、道案内…。次々と舞い込む事案を、約15人の署員で対応するには、何より迅速さが求められます。

夜が深まるにつれ、行き交う酔客の楽しそうな笑い声が重なる一方、交番内には事案発生を知らせる無線が鳴り響き、空気はどんどん重く張り詰めてきました。

多くの人が行き交うススキノの交差点。行動制限がなくなり、にぎわいが戻りつつある

多くの人が行き交うススキノの交差点。行動制限がなくなり、にぎわいが戻りつつある

 

午後11時20分ごろ、カラオケ店から「男性同士がもめている」と通報が入りました。「触るんじゃねえ、この野郎」。駆けつけた署員4人に詰め寄る中年男性。もめていたのは、この中年男性と若い男性。

若い男性も相当酔っており、友人の言葉にも耳を傾けようとしないほど興奮状態でした。「落ち着こう。まずはちゃんと話をしよう」。署員は何とか2人を引き離し、別々に事情を聴いてその場を収めていました。

無線を受け、現場に向かう署員たち

無線を受け、現場に向かう署員たち

 

対応した佐藤レナ巡査部長(28)は
「同じ酔っ払いのケンカでも、事情は一つ一つ違う。まずは話をしっかりと聴くことが大事です」。佐藤巡査部長は今年4月に薄野交番に着任しました。警察大学校(東京)で中国語を学び、この日も交番を訪れた中国人に対応しました。「ススキノは良くも悪くもにぎやかで、事案数も多い。心の奥底では正直、うんざりする時もありますが、その分やりがいもあります」

薄野交番は、札幌中央署員46人が所属し、ススキノで起こる事案に対応します。北海道内に314ある交番の中で最も人数が多く、道内最大規模の交番です。管轄エリアは札幌市中央区の南2~9条、西1~5丁目の0・76平方キロメートル。46人が3交代24時間態勢で勤務し、1勤務ごとに2日間休んでいます。

 

交番の建物は7代目

薄野交番の歴史は古く、1880年(明治13年)に札幌警察署薄野巡査交番所として開所したのが始まりです。現在の交番は今年3月上旬に完成し、3月4日から業務を始めた「7代目」です。

鉄筋コンクリート地上5階建て、延べ約250平方メートルの建物内には、地域住民との交流や会議などに使うコミュニティールームが設けられました。また、大規模停電に備え、自家発電機も設置されました。新たにシャワー室や女性用の休憩室も整備し、今年4月には薄野交番に初めて女性警察官が配属されました。

薄野交番3階に新たに設けられたコミュニティールーム。交番完成後、業務開始前日にのみ報道機関に公開された=2022年3月3日

薄野交番3階に新たに設けられたコミュニティールーム。交番完成後、業務開始前日にのみ報道機関に公開された=2022年3月3日

 

薄野交番に午前1時、ぼったくり被害に遭ったという男性が来ました。入店時は飲み放題のセット料金3千円と店内のホワイトボードに書いてあったにもかかわらず、会計では料金が3万8千円にふくれあがっていたといいます。

「証拠がなければ警察が動けないのは分かっている」。男性はそう話していましたが、次第に怒りが湧いてきたのか「善良な市民を助けられない警察なんて無能だ」と署員をののしり始めました。「ぼったくりも取り締まれないなら、あんたらは一体ススキノの何を守ってるんだよ」。2時間後、男性は「話にならない」と言い残し、帰って行きました。

「タバコではないものを吸っている人がいる」。無線を受け、岩沢天基(たかき)巡査部長(29)らと車で現場に向かいました。到着して辺りを探しても、それらしき人はいません。「空振りも多いが、何があるかは行ってみないと分からない」。岩沢巡査部長は多いときは1日に20回ほど現場に行くそうです。

現場の状況を無線で報告する署員たち

現場の状況を無線で報告する署員たち

 

午前3時過ぎ、署員が「寝込み」と呼ぶ、路上で酔いつぶれた人がいるとの通報が増え始めました。

「お兄さん大丈夫?起きられる?」。雑居ビル上階の踊り場で寝ていた若い男性に岩沢巡査部長らが声を掛け、男性を起こして一緒にエレベーターで降りました。外に出て、千鳥足で歩きながら何度も謝る男性に対し、岩沢巡査部長は「しょうがないよ。お酒を飲むと楽しいもんね」と言いながらタクシー乗り場まで送りました。

酔いつぶれた男性に声を掛ける岩沢巡査部長(左)

酔いつぶれた男性に声を掛ける岩沢巡査部長(左)

 

酔った人の対応が嫌になることはありませんか―。そう岩沢巡査部長に聞くと「相手が酔っていても、市民の安心安全を守るのが仕事。そのために仏の心で接しないと」という言葉が返ってきました。

空が白み始めたころ、さまざまな人たちが交番にやってきました。アルバイトが終わり、自宅に帰ろうとしたら自転車がなかった女性。酔っ払ってどこの店で飲んでいたか覚えておらず、スマホをなくした金髪の女性。冷や汗をかきながら、交番になくしたスマホが届いてないかと何度も確認に来る長髪の若い男性。帰り道でスマホを拾った男性。

署員はそれぞれの事情や経緯を丁寧に聴き、遺失物届を作成したり、落とし物を照会したりしています。その間も、無線は容赦なく鳴っていました。

新型コロナウイルス下でもススキノのにぎわいが戻り始めているのは、薄野交番の最近の状況から明らかです。薄野交番が事件事故や落とし物の取り扱いなどで対応した件数について、統計はありませんが、コロナ禍で落ち込んだ後、最近は再び増え始めています。

政府は3月21日、新型コロナ対策で北海道など18都道府県に適用していた「まん延防止等重点措置」を終了し、ススキノを含む道内の飲食店は同22日、時間短縮要請なしの営業を約2カ月ぶりに再開しました。薄野交番の対応件数は、今年3月までは1日50~60件ほどでしたが、まん延防止等重点措置解除後の今年4月からは約100件近くになりました。

ススキノのにぎわいが戻る中、それと合わせるように、犯罪発生件数が増えています。札幌中央署によると、薄野交番管内で把握した刑法犯発生件数は、今年4月~7月の4カ月間は計250件でした。前年同期の165件と比べて52%増です。コロナ禍前の19年同期の212件よりも多くなりました。

薄野交番管内の刑法犯発生件数は、今年1月~3月の3カ月間は計130件で、前年同期と比べて8%減となっていただけに、今年4月からは事件の発生が増えたことが分かります。

増え続けるトラブル

今年4月~7月に薄野交番管内で発生した刑法犯計250件の内訳は、自転車盗が48件、店舗や事務所などへの侵入窃盗が9件、強盗1件などとなっています。

午前5時半、飲食店ビルの入り口で、若い男性が中年男性2人に土下座をしていました。薄野交番の署員が止めに入り事情を聴くと、同じ飲食店で酒を飲んでいた面識のない3人がトラブルに発展したとのことでした。若い男性は「僕が悪いんです」と繰り返しましたが、中年男性の怒りは収まらず、もう1人の男性に抱えられながら、その場を離れました。

ススキノで酒に絡むトラブルは、まん延防止等重点措置が解除されてから増えているといいます。

もめ事を起こしていた男性に事情を聴く署員

もめ事を起こしていた男性に事情を聴く署員

 

コロナ禍のススキノでは、飲食店の入れ替わりも進みました。すすきの観光協会(札幌)によると、コロナ感染が広がった20年以降、客数の減少による閉店や移転が相次ぎ、コロナ禍前に約3800店あった飲食店は一時、3千店以下にまで減りました。ビル内の空き店舗が目立ち始めた21年には、店舗面積が100坪(1坪=3・3平方メートル)を超える「大箱」テナントに、道外資本のホストクラブなどが積極的に進出しました。

ススキノ地区で不動産仲介業を営む中川紀仁さん(45)によると、22年に入ってからは「ウィズコロナを見据え、個人客をターゲットにした20~30坪の小規模店舗の出店が増えた」と言います。

大箱を数店舗分に区切る動きも出始め、現在の店舗数はコロナ禍前に近づいたようです。正確な店舗数の統計はありませんが、「現在は3千店前後にまで回復しているのでは」(ススキノに詳しい不動産仲介業者)との見方があります。

「コロナ慣れ」の雰囲気も漂うススキノで、人出が減る気配はありません。ただ、多くは若者や観光客です。客の年齢層が高いスナックや地元客を常連とした飲食店関係者の間には
「行動制限がなくなったとはいえ、地元の中高年の客は戻っておらず、ススキノの客層はコロナ禍前と変わってしまった。(営業時間短縮や休業への)協力支援金がない今の方がつらい」
との声も根強くあります。

目抜き通りを行き交う人もまばらになった午前6時、「もめ」(もめ事)の無線が入りました。現場に着くと、その一角だけ異様なほど人だかりができています。大半が営業を終えたナイトクラブから出てきた客で、多くは20代とみられる若い男女でした。

友人2人と来店していた20代女性は、署員になだめられる男性を横目に「いつも最後はこんな風にケンカが起きて、警察が来るまでがセット」。別の20代女性は「コロナに慣れてきて人出が増えた分、治安も悪くなり、少し怖い。だけど、これぞススキノって感じ」。

たむろする若者たちがナイトクラブ近くのコンビニエンスストアで酒や弁当を買い、路上に座り込んでしゃべり始めていました。辺りはごみだらけで、1時間後、再び訪れると、ビル管理会社の70代男性が若者たちが残したごみを拾い、酒やカップラーメンの汁で汚れた路上を水で洗い流していました。「自分たちの遊び場であるススキノの街を、こんなに汚せる神経が分からない」

ススキノの路上に放置されたごみ。その後、ビル管理会社の男性が付近でごみを拾い、掃除をしていた

ススキノの路上に放置されたごみ。その後、ビル管理会社の男性が付近でごみを拾い、掃除をしていた

 

街全体が日差しに照らされた午前7時半、3時間前にスマホをなくしたと届け出た長髪男性が交番にやってきました。「家にスマホありました。迷惑掛けました。ありがとうございました」。取材を始めた前日の夕方以降、初めて交番内に穏やかな空気が流れました。

ススキノの夜が終わった―。疲れ切った署員たちの顔に安堵の表情が見え始めたのもつかの間、再び無線が鳴りました。「ビル前で男性同士のもめ事」。署員たちはすぐに交番を飛び出して行きました。

交番が完成後、業務開始前日に報道機関に公開された薄野交番1階の事務室。次々と来る来訪者と警察官が机で向き合い、対応する=2022年3月3日

交番が完成後、業務開始前日に報道機関に公開された薄野交番1階の事務室。次々と来る来訪者と警察官が机で向き合い、対応する=2022年3月3日

 

道内一忙しい交番、女性署員も活躍

署員46人と、道内最大の薄野交番で所長を務める杉本徹警視(58)に、業務への思いと最近の状況を聞きました。

薄野交番の杉本徹所長

薄野交番の杉本徹所長

 

薄野交番は道内一忙しい交番です。さまざまな事案に対応する中で、重要性が高まっているのが女性署員の存在です。例えば男女間のトラブルでは、当事者は同性の警察官には事情を話しやすい傾向があります。今年4月に薄野交番初となる女性署員が6人配属され、活躍しています。

今春にまん延防止等重点措置などの行動制限が解除されてからは取扱件数は増加しています。一日の中でも特に忙しいのが午前2~7時の時間帯です。酔っ払い同士のケンカなどが起きやすく、事案の発生状況によっては、仮眠中の署員も起こして現場に向かわなければなりません。忙しい分、負担も大きいですが、署員全員が「薄野交番で仕事をしている」というプライドを持っています。

ススキノは道内最大の観光地であるとともに、市民にとっては癒やしの場の歓楽街でもあります。皆さんが嫌な思いをせずススキノを楽しめるよう、今後も犯罪を取り締まっていきます。

(参考:北海道新聞電子版)

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