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2040年ごろの宇宙旅行を目指し、ロケット搭乗の「先行予約」を受け付けている企業があります。ロケット開発スタートアップ(新興企業)の将来宇宙輸送システム(ISC、東京)は、宇宙空間に今後誕生するホテルへ、ロケットで滞在客を運ぶ構想を打ち出しています。
2040年宇宙の旅に3千人が予約 北海道・大樹が出発地!? スタートアップに聞いてみた
この旅行は搭乗の先行予約の案内が1年前にスタート。同社は十勝管内大樹町の宇宙港「北海道スペースポート(HOSPO)」でも機体の開発に向けた試験を行っています。ISCが考える宇宙旅行とはどんなものなのか、事業の責任者に話を聞きました。
話をしてくれたのはISCのビジネス部で宇宙旅行担当の責任者を務める森実(もりざね)将(まさる)さん(40)です。森実さんは家電メーカーの技術職や介護ベンチャー起業などを経て、「社会人生活もそろそろ折り返し。これからは宇宙が当たり前になる文化づくりに関わりたい」として24年6月に入社しました。
将来宇宙輸送システム(ISC)
経済産業省の元官僚で、内閣府出向時代に宇宙活動法の策定などに関わった畑田康二郎氏が2022年に設立。再使用型の人工衛星搭載ロケットの開発を進めているほか、40年をめどに宇宙に人を輸送する再使用型ロケットの実用化を目指している。
23年12月には大樹町の北海道スペースポートでロケットエンジンの燃焼試験を実施した。政府が27年度の人工衛星打ち上げを目指して民間ロケットの開発・実証を行う国内スタートアップを支援する事業に、2013年創業のインターステラテクノロジズ(IST、十勝管内大樹町)、18年創業のスペースワン(東京)と共に選ばれている。段階的に補助対象は2社に絞り込まれていき、最後まで対象に残ると国から最大140億円の支援を受けられる。
――ISCはどんな宇宙旅行を描いているのですか。
「2040年を目標に、50人程度を乗せて宇宙を往復するロケットの開発を計画しています。40年ごろには高度400キロほどの宇宙空間にホテルなどができているとされ、大手ゼネコンなどが構想を提案しています。そのホテルへの旅行客の輸送を担おうと考えているのです。打ち上げから宇宙空間到達は数十分程度ですが、実際にはロケットへの乗り込みから打ち上げまでの準備、宇宙側での着陸(ドッキング)作業などで数時間くらい乗っていることになるかなと思います」
ISCが想定する宇宙旅行の流れ(8日間の場合)はこんな感じだ。
1、2日目は健康チェックや最終的なトレーニングのために地上の宇宙港(打ち上げ場)に併設されたホテルに滞在。
3日目が打ち上げ当日で、朝食後に宇宙服へ着替えるなどして搭乗。宇宙到着後は宇宙ホテルで4泊5日の滞在を楽しみ、
7日目地球へ帰還。地上のホテルでアフターチェックを1日行い、
8日目に解散となる。ロケットの現時点での搭乗代金について、窓の外が見にくい可能性があるエコノミークラスが300万円、景色が良いビジネスクラスは800万円、座席や機内食のグレードが上がるファーストクラスは1500万円と想定している。ホテルの宿泊などは別という。
――ISTは観測用ロケットでの宇宙空間到達に成功し、スペースワンは人工衛星を搭載した小型ロケットを打ち上げる段階まで来ています。2年前に創業したISCのロケット開発は初期段階と思いますが、すでに人の輸送まで構想しているのですか。
「人工衛星搭載用ロケットの開発から打ち上げ、国際競争力がある高頻度の有人輸送システムの実現まで一貫して開発を進めていきます。有人輸送の前には宇宙ホテルを建てるための資機材などを宇宙に運ぶ需要もあるでしょう」
「ISCが開発を目指すロケットは一回きりの使い捨てではなく、同じ機体を短期間で繰り返し運用します。信頼度の高い機体で高頻度に輸送を行うことで、1回当たりの価格を引き下げます」
――2023年11月に始めた宇宙旅行の先行予約登録は、宇宙関連のイベントなどでPRしているそうですね。何人くらいが登録していますか。
「11月でちょうど1年が経過し、これまでに3千人を上回る人が登録してくれています。宇宙に関するイベントは男性の来場が多い傾向にありますが、登録はほぼ男女半々となっています。10月に帯広市内で開かれた北海道宇宙サミット2024でも30人以上の方が登録してくれました。北海道内の方も関心を持ってくれていると思います」
「登録してくれた方には、実際に予約を受け付ける段階になりましたら案内を送ります。本申し込みは30年代後半を予定しています。いまは開発状況などや宇宙旅行関連のトピックスなどをお知らせするメールマガジンを1~2カ月に1度のペースで送っています。関心の高い人が多く、メルマガの開封率も高いです」
――実際の予約申し込みはかなり先ですが、現時点で登録を受け付ける理由は。
「ISCは宇宙の大衆化、お茶の間化を目指しています。ロケットでの宇宙旅行という前例のないものを創り出すに当たり、利用者の声を今後の開発に取り入れたいと考えています。技術者の視点だけで考えれば機体の構造などに合理性を求めてしまいがちになりますが、お客さまの声を開発に生かすという点は、ほかのロケット開発企業にない先駆的な取り組みだと自負しています」
「登録の際にはアンケートで旅行の目的や期待している点、逆に不安な点などを答えてもらっています。宇宙への往復中に景色を楽しみたいという意見や、飛行機と同じような快適性を求める声が目につきます」
――どんな意見がありますか。
「例えばトイレです。本来はロケット内にトイレはない方が良いのですが、数時間はかかるとされる到着、下船まで搭乗客に我慢してもらうわけにもいきません。機体への乗り降りをどうするかなど、訓練された宇宙飛行士だけが乗るロケットと、一般の人が乗るロケットでは求められるものが大きく異なってきます。アンケートの意見や傾向について、社内で技術開発のメンバーと議論しています」
――ISCはロケットエンジンの燃焼試験を大樹町の北海道スペースポート(HOSPO)で2023年12月に行いました。今後も大樹町で実験や打ち上げをする可能性はありますか。
「今後、ロケットの打ち上げが増えてくれば、日本国内の発射場は圧倒的に足りなくなります。そんな中、大樹町のHOSPOはすでにロケットの打ち上げ実績があり、今後も発射場や滑走路の拡張を検討しているのはとても心強く思います。これからも試験などでHOSPOを活用していきたいと考えています」
「宇宙旅行用ロケットの打ち上げ、帰還場所についてはまったく決まっていませんが、打ち上げ前と帰還後はそれぞれ1~数日程度、地上で健康状態の確認などをする必要があります。心身を休めてもらうのに、自然豊かで食べ物のおいしい北海道は、宇宙旅行全体の魅力向上につながると思います。そういった意味でも、北海道は宇宙への入り口となるポテンシャルがあると思っています」
(参考:北海道新聞 デジタル発)
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