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なまらあちこち北海道|男性のトイレ事情、立つ?座る?

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「男性も座ってご利用ください」―。まちなかの洋式トイレに入ると、こんなステッカーを見かけることが増えました。どんな理由から排尿時の姿勢まで求めているのか、あなたは考えたことがありますか。

立つ?座る?男性のトイレ事情 既婚と独身で違う「座りション」 追っかけ漏れ防止にも

結婚すると、「座る」派が断然多いとの調査結果もあります。切なくて深い男性のトイレ事情を探ってみました。
 「家では大も小も座ってしていますよ」
 こう話すのは札幌市手稲区の会社員男性(58)。男性はもともと、自宅の洋式トイレで立って用を足していたが、妻(55)から座ってするように再三注意されていた。尿の飛び散りでトイレが汚れ、掃除が大変なためだ。だが、男性は無視し続けた。
 「もう、いいかげんにして頂戴」
 昨年暮れ、妻の怒りが爆発した。トイレに連れて行かれ、壁をよく見るように言われた。尿の飛び散りで白かった壁紙の便座付近は、黄色く変色していた。
 男性は妻に謝り、以来、座って用を足すようになった。
 「壁紙の色が変わるほどになるとは思っていませんでした。それまでは床にこぼすと、トイレットペーパーで軽くふくくらいでしたから。でも、座ってすると、汚す心配もなくなるし、ゆったりした気持ちで済ませられるのでいいですね」と話した。
 立って排尿すると、実際どのくらいの尿が周りに飛び散るのだろうか。トイレットペーパーなどの製紙大手、大王製紙(東京)は2024年に実証実験を行った。
青色の水を注射器に入れ、便器に放出した実験(大王製紙提供)

青色の水を注射器に入れ、便器に放出した実験

 実験に携わった同社デジタル推進部デジタルコンテンツクリエーショングループ課長の小林豊さん(38)に話を聞いた。
 男性1回の排尿量は200~400ミリリットル。実験では青く着色した水300ミリリットルを注射器に入れ、立って排尿するのと同じほどの高さから放出した。
 次の写真は、青色の水300ミリリットルを3回放出した後に撮影したものだ。
 立って排尿するとどうなるのか。この後、実験結果について詳しく伝えます。
飛び散った青色の水。特に便器の手前の床が目立つ(大王製紙提供)

飛び散った青色の水。特に便器の手前の床が目立つ

 便器の中に入った青色の水が便器のふちに飛び跳ねているのが分かる。床への飛び散りは、手前側が特に顕著だった。細かな飛び散りは壁にも見られた。小林さんは「実験では、立って排尿すると便器や床への飛び散りが目立ちました。飛び散った尿に気付かずに触ったり、踏んだりしてしまい、汚れが家中に広がることも考えられます。衛生面から見ると男性も座って排尿される方が良いとの結論に至りました」と話す。

20代は7割が座る派

 興味深いデータがある。
 一般社団法人日本排尿機能学会(東京)が23年、男性の排尿時の姿勢を調べたところ、20代では7割弱が座って用を足していた。
 調査はインターネットを通じ、全国の20~90代の男性3122人から回答を得た。
 回答者のうち座って排尿する人の割合は、20代が69%と最も高く、30代が66%、40代が57%。60代でも52%と半数を超え、90代でも37%だった。家庭トイレで和式から洋式への転換が進み、若い世代ほど洋式に慣れ、衛生面にも気を使っていることがうかがえる。
 調査は、頻尿や尿の出の悪さ、足腰の不調などが、排尿時の姿勢に影響を与えているのかを調べることが目的だった。ところが、不調のある人と、そうでない人を比べても特段の差は認められなかった。そこで、既婚男性と独身男性の数字を比べたところ、差がみられた。
 20~30代の既婚男性では、座って排尿する割合が75%だったのに対し、独身では62%と13ポイントの差があった。40~50代は座って排尿が61%、独身が47%。60代以上は座って排尿が52%、独身が41%。いずれの世代も10ポイント以上の差があった。
 調査を担当した東邦大学医療センター大橋病院泌尿器科の関戸哲利(のりとし)教授(58)は「調査では理由を直接聞けていないのが残念ですが、衛生環境への配慮が大きいと考えられます。既婚者の場合は同居家族への配慮から座る割合が高くなっているのでしょう」とみる。
関戸哲利教授

関戸哲利教授

 座って排尿することは、衛生面だけの効果にとどまらないようだ。関戸教授によると、座ると体が安定し、骨盤の筋肉が緩みやすくなり、腹圧も掛けやすくなるという。「個人差や長年の習慣などもあって一概には言えませんが、骨盤の筋肉が弛緩(しかん)しやすいので尿が出やすくなる側面はあると言えます」
 加齢とともにどうしても筋肉は弱るものなので、特に排尿でお悩みの高齢者は試してみる価値がありそうだ。

 「追っかけ漏れ」に効果も

 座って排尿することの利点を別の角度から指摘する専門家もいる。
 男性なら一度や二度の経験がおありだろう。全部出し切ったと思っても、しばらくするとじわじわと漏れ出る「追っかけ漏れ」。パンツやズボンにも染み出て、実に不快だが、これにも良い対策があるようなのだ。
 少し専門的になるが、旭川市のクリニック「神楽岡泌尿器科」院長の渋谷秋彦医師(63)に解説してもらった。
 男性の尿道は直線ではなく、S字形の緩やかな曲線を描く。排尿時はしぼんでいた尿道が広がり、ぼうこうから流れ出た尿がそこを通る。尿が十分にたまった状態で排尿すると自然と流れて尿道も縮んで尿は残らないものだが、きばったり、たまっていない状態で排尿すると、折れ曲がった谷の部分に尿がたまりやすくなる。そのため、しばらくすると尿が漏れ出てしまうという。
 渋谷医師は「なかなか相談できず、お年寄りだけでなく、若い人でも人知れず悩んでいる方がいます。スポーツ選手で大事な試合の前だからと踏ん張って出そうとすると起こりやすいんです」と言う。
 その際、患者に次のような理屈を説明すると納得してくれるそうだ。
 「陰のうと肛門の間、会陰部と呼ばれる部分を指で何度か押すとくぼんだ尿道部分が上に上がるため、残っていた尿を出すことができます。立っても押せますが、周りに人がいるようならぜひ座ってリラックスした状態で押してみてください」

座りションは義務? 日本トイレ研究所代表理事の加藤篤さん

日本トイレ研究所代表理事の加藤篤さん

日本トイレ研究所代表理事の加藤篤さん

 近年、公共トイレなどでマナーとして求められるようになってきた「座りション」。さまざまなトイレ問題を研究してきた専門家はどう見ているのだろうか。特定非営利活動法人日本トイレ研究所(東京)代表理事の加藤篤さん(52)に話を聞いた。
 ――男性にも座って排尿を求める動きをどう見ていますか。
 「男性トイレのあり方を考える前にまず、大事なことを指摘しておきたいと思います。排せつは自律神経の中の副交感神経が重要な役割を担っています。副交感神経はリラックスしている状態の時に優位になる神経です。排せつには安心できるトイレ環境が必要です。次に排尿そのものは個人ごとに習慣化され、急にやり方を変更するのは難しいということです。無理に変えれば不安感などから出なくなることもあります。排尿は実にデリケートなものなのです」
 ――確かにそうですね。狭くて窮屈なトイレだったり、後ろに並ばれ緊張したりすると、かえって出づらくなった経験があります。
 「排尿時は、落ち着いてリラックスできることが大事です。現状では座りションはマナーとして広まっていますが、これが強制になると、困る人も出てきます。例えば、ひざがうまく曲がらず、立った姿勢でないと排尿がしづらい人もいます。立つか座るかは健康状態に応じて自分で選べることが重要です」
座って排尿を求めるステッカー

座って排尿を求めるステッカー

 ――公衆トイレでは、清掃面の大変さから座ることを求める傾向が強いと感じました。
 「実際、トイレの維持、管理には水道代や電気代、薬剤費、清掃にかける人件費など費用が結構掛かっています。人口が今後減少し、慢性的に清掃員が不足する状態が続けば、公衆トイレの維持、管理は難しくなると考えられます。快適なトイレを無料で使えるという価値を多くの人が理解する必要があります。
 私が過去に調査した英国・ロンドンでは、公共トイレが徐々に減っていました。日本でも同様のことが将来起きかねません。さきほど説明したように、立ってする自由もありますが、それは次に使う人に迷惑を掛けないことが大前提です。もし汚してしまったら、しっかりと拭きましょう。日々使えることに感謝する気持ちとともに、きれいに大切にトイレを使っていただきたいと思います」
(参考:北海道新聞 Dセレクト)

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