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私は何年か前に、北海道最南端のM町に住んでいました。
そこでよく飲みに行っていたスナック「K」のママの話がとても面白くて文章にしたものです。何回か投稿します。お付き合いください。
トトロママの十客十色(3)
3 長い髪の女性客
「私って予知能力があるなって思うことがよくあるの」
秋も深まったある日、私はトトロママ手造りの鱈のかまぼこに舌鼓を打ちながら聞いていた。
例えばあのお客さんがしばらく来ていないなあとふと思うことがある。すると間もなくそのお客から電話が来たり、店に顔を出すことがよくあるという。
先日TVで、家の中で飼っている犬が吠えると数秒後に電話がかかってくるというのを放映していた。確かに番組の中では電話がかかって来る数秒前に犬が吠えていた。これは予知というより回路選択での電気的な刺激を犬が感じているのではないかと私は思って見ていた。しかし、店にお客が来ることを感じるというのはある意味では予知能力かもしれない。
その夜、トトロママがその客が来るということを感じたかどうかは聞き漏らした。店の戸が開いて二人連れの客の姿が見えた。ママはその二人を見て、いつものごとくおしぼりを二つカウンターに置いて客が座るのを待った。男の客はすぐに店に入って来て座ったが、女性客はなかなか入って来ない。白いスーツに黒く長い髪の女性である。
「お連れさんはどうしたの」
トトロママは聞く。もしかしたら別の用事を片付けに行ったのかもしれない。
「連れって?」
客は怪訝そうに尋ねる。
「今、一緒に来たでしょう、白いスーツを着て、髪の長い女性と」
「えっ!」
客の顔が怯えたように変わった。
「その女がいたの?」
客の慌てようから、トトロママは別れた女性が追ってでも来たのではないかと思った。
だが話を聞いていくうちにトトロママは自分の「能力」に不思議なものを感じることになった。
「実はね、その女の人はその日に亡くなったんだって、事故にあって。長い髪のきれいな女性で、事故の時白いスーツを着てたんだって。その遺体にお参りしてからこの店に来たらしいのよ。」
トトロママは遠くをみるような目で話したあと、視線を自分の手に落とした。秋の冷気が店を包んだように思えた。
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