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雪虫が昨年は大発生して、今年も続いて大発生するという予測が発表されていましたが、見事(?)に外れました。でも生活する私たちにとっては有難いことです。では何故大発生は無かったのでしょうか。
雪虫に天敵出現!? 「この秋も大量発生」の予測空振り
北海道に冬の訪れを告げる「雪虫」。昨年は辺り一面を覆うほど大発生し、道民を困惑させました。残暑が厳しかった今年も大量発生が予想されていましたが、そうした現象は今のところ見られません。なぜでしょうか。専門家に話を聞きました。
※虫の写真と動画が出てきます。苦手な方はご注意ください。
「見事に予想が外れた」。雪虫に詳しい北海道大名誉教授の秋元信一さん(68)は苦笑を浮かべながら語った。「虫の数を定量化することは難しいが、珍しく非常に少ない年だった」
秋元さんは20年余り、北大構内などで雪虫の定点観測を続けてきた。その結果、札幌で9月の平均気温が20度前後になると、10月中旬以降に大発生する―という法則を見いだした。
記録的な猛暑となった昨年、札幌の9月の平均気温は21・5度を記録。道内各地でも雪虫が大群となって舞う姿が報告され、10月25日には札幌市中央区の大通公園などで無数の雪虫が発生した。X(旧ツイッター)でも「空一面、雪虫が飛んでいる」「服に付き、口にも入ってくる」などのつぶやきが相次いだ。
この雪虫の正体は「ケヤキフシアブラムシ」という、もともと道内には生息していなかった国内外来種だ。明治期に本州からケヤキが持ち込まれたのと同時期に、道内でも広まったと考えられている。
雪虫は降雪期前に飛んで木々を移動するアブラムシの仲間の総称。白い綿状のろう物質を付けた「トドノネオオワタムシ」が一般的な雪虫とされるが、近年大量に発生しているのは綿がない「ケヤキ」の方だ。
虫全般に言えることだが、「ケヤキ」も気温が高いほど繁殖サイクルが早まり、猛暑の年に大発生する傾向がある。
今年の道内も本州ほどではないが、残暑が厳しかった。9月の札幌の平均気温は19.9度。秋元名誉教授は10月20日ごろに大発生する―と予測し、一部メディアの取材にもそう答えていた。
■天敵が出現か!?
しかし昨年のように大発生することはなかった。どうしてなのか。
秋元さんは「天敵が現れたのではないか」と話す。秋元さんが指導する大学院生と共に2021年に発表した論文によると、「ケヤキ」と同じアブラムシの仲間に、センチュウの一種「シヘンチュウ」が寄生しているのが見つかった。
2015年度まで全国の幼稚園や小学校で行われていた寄生虫卵の有無を調べる「ぎょう虫検査」で知られる寄生虫「ヒトギョウチュウ」も、センチュウに含まれる。
「ケヤキ」が幼虫から成虫に成長する段階で、シヘンチュウやその仲間が寄生し、大半を死滅させたのではないか―と考えられる。国内外来種が道内に定着して1世紀以上が経過し、ようやく天敵が出現したわけだ。
自然界では特定の生物が大発生した後、遅れて天敵も大量に出てくる傾向にある。センチュウも道内で増殖した可能性があるという。
天敵の登場で、来年以降に猛暑となっても「ケヤキ」が大量発生することはないのか。
秋元さんは「そうとも言いきれない」と話す。何らかの要因で「ケヤキ」がセンチュウの生息数を大きく上回るほど発生する可能性が否定できないからだ。秋元さんによると、それは「遅れの密度依存性」と呼ばれる自然界の法則だという。
今後も「数年に1回の大発生」
気候変動に伴い、道内の夏の気温は上昇傾向にあり「ケヤキ」が爆発的に発生する条件は年を追うごとに整いやすくなるとみられる。秋元さんは今後も「数年に1回の大発生」に警戒する必要があると指摘する。
私たちが気を抜いたころ、無数の雪虫が再び街中を飛び交うかもしれない
(北海道新聞 Dセレクト)
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