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なまらあちこち北海道|初音ミク16歳、愛される訳は

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初音ミクが私たちの目の前に姿を現してから16年が経ちました。今なお人気は衰えるどころか、ますます活躍の場が広がるという、誰もが考えられなかったその訳は一体どこにあるのでしょうか。

初音ミク「16歳」 愛されるキャラクター、そのワケは

マジカルミライのライブでファンのペンライトにこたえながら歌って踊る3DCGの初音ミク©CFM/©TOKYO MX/©SEGA

マジカルミライのライブでファンのペンライトにこたえながら
歌って踊る3DCGの初音ミク©CFM/©TOKYO MX/©SEGA

 「初音ミク」は、歌詞とメロディーを入力するとバンドのボーカルのように歌わせることができる歌声合成ソフトと、そのキャラクター。2007年8月31日に発売されました。

ペンライトもち大合唱

 8月11日、大阪で開かれた「マジカルミライ 2023」のライブ。およそ体育館四つ分もある会場には、数千人のファンが集まりました。レーザー光線が放射され、3次元コンピューターグラフィックス(3DCG)技術で再現された初音ミクがステージに登場すると、10代から60歳代までとみられる幅広い年齢層のファンは、いきなり総立ちになりました。

 初音ミクが、生バンド演奏に合わせてツインテールの髪を振り乱しながら歌い出すと、ファンたちはミクのイメージカラーとなっているブルーグリーン色のペンライトをタテに横に振りながら「ハイッ、ハイッ」と声を合わせて、盛り上げます。

 クリプトン社の伊藤博之社長は「今年はファンが思う存分、声出しして、いつものライブが戻ってきた」と満足そうです。

 「ミク、ミク」の大合唱で、熱気が最高潮となった約2時間のライブで披露されたのは約20曲。締めくくりに16歳を迎えた初音ミクがファンに語りかけると、会場からは「おめでとう!」の声がこだましました。

マジカルミライのライブを終えた高校生2人組。「雪ミク(初音ミク)」のグッズを持参してきた

マジカルミライのライブを終えた高校生2人組。
「雪ミク(初音ミク)」のグッズを持参してきた

 京都と滋賀から来た高校2年の米村優翔さん(16)と平野翔輝さん(15)は昨年に続き2度目のライブ参加。「初音ミクは人工の声なのに、人間よりも感情が揺さぶられます」と興奮気味に語ってくれました。

マジカルミライのグッズ販売ブースはどこもファンの長い行列ができていた

マジカルミライのグッズ販売ブースはどこもファンの長い行列ができていた

ファンが初音ミクなどのイラストを大きな壁に描く企画も

ファンが初音ミクなどのイラストを大きな壁に描く企画も

マジカルミライのメインビジュアルの等身大立像(右)を撮影するファン

マジカルミライのメインビジュアルの等身大立像(右)を撮影するファン

グッズ売り場に長い列

 この日行われた「マジカルミライ」は、3DCGライブやグッズ販売、ワークショップなどを組み合わせた初音ミク関連の最大イベント。2013年から毎年開催され、昨年までの10年間で計36万人を動員しました。

 初音ミクの法被やTシャツを来たファンがどのグッズブースにも長い行列をつくり、大きな壁に思い思いのイラストを描いたり、メインビジュアルの等身大立像の写真を撮ったりとごったがえしました。SNSで知り合ったという東京や岐阜などから来た20代から30代の男性5人組は「ファンやクリエーターがそれぞれの感性で描いたいろんな初音ミクが楽しめる」と魅力を語ります。
愛知県からマジカルミライのライブに来た崎山結菜さん(19)。ファン歴10年以上で「ミクは愛嬌(あいきょう)があって歌声が自由自在です」

愛知県からマジカルミライのライブに来た崎山結菜さん(19)。
ファン歴10年以上で「ミクは愛嬌(あいきょう)があって歌声が自由自在です」

歌声合成ソフト「初音ミク」の歴代パッケージ。左端が2007年に発売された最初のバージョン

歌声合成ソフト「初音ミク」の歴代パッケージ。左端が2007年に発売された最初のバージョン

最小限の設定に

 16年前、初音ミクはどのように誕生したのでしょうか。生みの親の1人で、現在は国内キャラクターライセンス事業のマネジャーを務める熊谷友介さんは「多くの人にソフトを使ってもらうには『かわいい少女』という親しみやすいキャラクターがまず必要で、さらに声にも親しみがもたれるよう、声優を起用しました」。

 熊谷さんと同じ事業のマネジャーを務めている目黒久美子さんも「一方で、キャラクターが『萌(も)え系』に寄りすぎないよう、衣装には当時シンセサイザーの名器『ヤマハDX7』のデザインや、ブルーグリーンの色を取り入れるなど音楽愛好家にもなじみのある要素を取り入れました」と振り返ります。

「初音ミク」の2007年発売時のパッケージビジュアル。ブルーグリーンの髪色や左腕部分のキーボード状のデザインは、当時の有名シンセサイザーを意識している(クリプトン・フューチャー・メディア提供、Art by KEI © CFM)

「初音ミク」の2007年発売時のパッケージビジュアル。
ブルーグリーンの髪色や左腕部分のキーボード状のデザインは、
当時の有名シンセサイザーを意識している(クリプトン・フュー
チャー・メディア提供、Art by KEI © CFM)

 キャラクターの設定として当初、細かな背景のストーリーも考えましたが、それがかえって創作の幅を狭めるとの判断で、最小限にとどめました。最終的に年齢16歳、身長158センチメートル、体重42キロ、イメージカラーはブルーグリーン―というシンプルなものに。名前の由来は「未来からきた初めての音」でした。

 こうして生まれた初音ミク。ヒットの確証まではなかったそうですが、発売の前年に始まった動画投稿サイト「ニコニコ動画」に多くのクリエーターらが初音ミクでつくった音楽を投稿し始め、ムーブメントが起こり始めました。

 実はこのとき、クリプトン社では初音ミク人気を決定付ける重要なテーマが議論されていました。

初音ミク誕生時に担当したクリプトン・フューチャー・メディアの熊谷さん(右)と目黒さん(左)。中央の初音ミクは「16周年記念プロジェクト」のメインビジュアル

初音ミク誕生時に担当したクリプトン・フューチャー・メディアの熊谷さん(右)
と目黒さん(左)。中央の初音ミクは「16周年記念プロジェクト」のメインビジュアル

二次創作を原則、自由に

 当時有名キャラクターは、原作やストーリーがしっかり設定されており、キャラクターのデザインなどを変える二次創作は原則として認められないのが一般的でした。

 一方、ファン同士でキャラクターを好みのデザインにアレンジして楽しむ同人活動は、キャラクターの二次創作物が多く、こうした人たちは原作者に後ろめたさを感じながらイラスト作品などをつくっていました。

 そうした状況をマネジャーの目黒さんが報告すると、伊藤社長が意外な返答をしました。「え、どうしてそれをOKしないの」―。

 クリプトン社は初音ミク誕生からほどなく、一定のルールの下で二次創作を認めることを決めたのです。この決定の背景を、もう1人のマネジャーの熊谷さんが解説します。「初音ミクを使って多くのクリエーターに作品をつくってもらうには、初音ミクで自由に創作してもらうことが重要なのです。クリプトン社が、キャラクタービジネス未経験の会社だからこその発想です」

 最小限のキャラクター設定しかされなかった初音ミク。さらに二次創作の制限から開放されたことで、ニコニコ動画やクリプトンのイラスト投稿サイト「ピアプロ」などには、初音ミクのパッケージデザインとはイメージが大きく異なるイラストや動画作品がネット上に発表されていきます。

「砂の惑星」7800万再生

 すると、興味深い現象が起こりました。「創作の連鎖」です。

 初音ミクのイラストや動画が公開されると多くの人が視聴し、それが次回作の創作意欲につながったり、視聴した人が刺激を受けて自分も挑戦し始めたのです。発売1年目で、動画再生回数が390万回を超える楽曲が生まれます。

 初音ミクのような歌声合成ソフトで楽曲を制作して、動画投稿サイトに投稿する音楽家はヤマハが開発した歌声合成技術「ボーカロイド」にちなんで「ボカロP」と呼ばれます。そのボカロP・黒うさPさんの初音ミク作品「千本桜」(2011年)は現在までに5200万再生、ハチさん(米津玄師さん)の「砂の惑星」(17年)は7800万再生されています(いずれもユーチューブ)。ニコニコ動画では、初音ミク関連の投稿作が約32万件になります。

はるまきごはんさんの「ぽかぽかの星」が収録された、イベント「スノーミク 2020」のオフィシャルCD

はるまきごはんさんの「ぽかぽかの星」が収録された、イベント
「スノーミク 2020」のオフィシャルCD

スノーミクのテーマ曲に

 ボカロPはどんなところに初音ミクの魅力を感じるのでしょうか。札幌出身でボカロP歴9年という「はるまきごはん」さんが制作した初音ミク作品は40曲。

 「ぽかぽかの星」は20年に札幌で行われた初音ミクの派生キャラクター・雪ミクのイベント「SNOW MIKU(スノーミク)」のテーマ曲になりました。「初音ミクはいろんな世界を描ける懐の深さがあり、彼女に歌ってもらうことで自分の表現は何倍にも広がりました」と語ります。

 クリプトン社によると、初音ミク関連のソフト累計売上本数は28万超、公式LINE登録者数が65万人以上、ユーチューブチャンネル登録者数250万人以上、フェイスブックフォロワー数は240万人以上になります。

 この世に現れてから16年たった初音ミク。草創期から携わってきた熊谷さんは「イラストを描く人、曲や動画をつくる人がいまだにたくさんいて、どれ一つとして同じものがない初音ミクが日々生まれる多様性こそが強みなのです」と語ります。

男女問わず人気

 独自の視点で初音ミクを研究しているのが、東大や東京芸大で「ボーカロイド音楽論」を講義しながら自らもボカロPの鮎川ぱてさん。鮎川さんは初音ミクの成功の要因について「少女のキャラクターなのに、男女問わず人気があるのがすごい。ボーカロイドでだれでもプロ並みの曲をつくれ、ニコニコ動画という発表の場と初音ミクの親しみやすさが化学反応を起こして大きなうねりになった」と指摘します。

 初音ミク人気の高まりとともに、活動エリアはイラストや音楽にとどまらず、さまざまな業界とのコラボが生まれました。

セガが制作した初音ミクゲーム「プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat.初音ミク」のキービジュアル(セガ提供)

セガが制作した初音ミクゲーム「プロジェクトセカイ カラフルステージ!
feat.初音ミク」のキービジュアル(セガ提供)

ユーザーの7割10代

 ゲーム大手のセガは初音ミクの初期のころから現在まで関連商品を展開しているパートナーの一社です。2009年発売の音楽ゲーム「初音ミク プロジェクト・ディーバ」シリーズは、22年にも新作が発売されたロングセラー。

 当時の担当者は「初音ミクというまったく新しいキャラクターが登場したことの驚きが強く、面白いゲームができるに違いないという情熱がありました」と振り返ります。セガがこれまで一般向けに発売した初音ミク関連のゲームソフトの累計販売数は650万本/ダウンロードにもなっています。

 20年リリースの音楽ゲーム「プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat.初音ミク」は世界130の国・地域で展開。国内ユーザーが1000万人を突破し、その約7割が10代の男女です。

 セガは「初音ミクは今ゲーム大手各社が一番獲得したい(1990年後半ごろから2012年ごろに生まれた)Z世代の支持を確実に取り込んでくれます」(広報部)と評します。ゲームは常に若いファンが生まれる回路の一つになっています。

グッドスマイルカンパニーが「初音ミク16周年」を記念して発売する限定ねんどろいど(グッドスマイルカンパニー提供、Art by Rella © CFM)

グッドスマイルカンパニーが「初音ミク16周年」を記念して発売する
限定ねんどろいど(グッドスマイルカンパニー提供、Art by Rella © CFM)

 初音ミクは、歌舞伎やオーケストラとのコラボや、米人気歌手レディ・ガガの公演のオープニングアクトに登場するなど海外でのライブ公演も行われ活動の領域は広がるばかりです。これまでのコラボ数について、クリプトン社は「取引する会社だけで1000社を超え、関連商品は数万アイテムを超えているでしょう」と話します。

「初音ミク16周年」の記念画集におさめられたイラスト作品

「初音ミク16周年」の記念画集におさめられたイラスト作品

創作活動を絶やさず

 変わらぬ人気で迎えた16歳の誕生日。クリプトン社が企画する記念プロジェクトのコンセプトは「ディア(親愛なる)・クリエーターズ」。多くのクリエーターの手により音楽やイラスト、動画を始め多種多様な創作が生み出されたことへの感謝を込めています。

 創作の輪をさらに広げようと、高校生を対象にしたイラストコンテストには500作以上が集まり、楽曲コンテストは770曲以上の応募がありました。年齢制限のないイラストコンテストには3200の応募があり、選ばれた390点は400ページの画集として販売されました。

 初音ミクはこれからどうなるのでしょうか。創作の世界は生成AI(人工知能)の登場で、劇的な変化が訪れています。クリプトン社は「時代に合わせて変化していくことも大事ですが、多くの人が初音ミクの創作活動を絶やさないようにすることに変わりはありません」と語っています。
(参考:北海道新聞Dセレクト)

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