スポンサーリンク

なまらあちこち北海道|AI時代は「さかなくん」を目指せ・北大教授

この記事を読むのに必要な時間は約 5 分41 秒です。

AIによる文章作成が行われる時代です。私たちはどのように対処すれば良いでしょうか。
北海道新聞社・報道センターのスタッフが、北海道大学大学院情報科学研究院の川村秀憲教授に聞きました。

AI時代は「さかなクン」を目指せ チャットGPTとの向き合い方

「生成AIは社会のあり方を変える」と語る北大情報科学研究院の川村秀憲教授

 かわむら・ひでのり 1973年、釧路市生まれ。小学生からパソコンでプログラムを書き始め、人工知能に興味を持ち始める。2000年、北大大学院工学研究科博士課程修了。16年から同大学院情報科学研究院調和系工学研究室教授。同大発ベンチャー「調和技研」の社外取締役も務める。

社会システムを揺るがす

 ――チャットGPTの登場で、誰でも自由にAIを使える時代なりました。AIが急に身近な存在になりましたが、チャットGPTは社会にどのような影響を与えているのでしょうか。

 「幼い頃、母親に『なぜ勉強しなきゃいけないの』と聞いたことはありますか? 勉強していい大学に入って、いい会社に入ったら給料が多いから幸せでしょうと答えたお母さんもいるでしょう。しかし、生成AIの登場によってこの社会システムが根本的に揺らいでいます。学校で学ぶ国語、算数、理科、社会など各教科の知識や能力は、人間よりもAIの方が優秀な世界になりつつあるからです」

 チャットGPTとは
ウェブ上にある大量のデータを学習し、文章や画像を生み出す「生成AI」の一つ。利用者が質問を入力すると自然な文章で回答するため「対話型AI」とも呼ばれる。米新興企業のオープンAIが2022年11月に無料公開し、公開2カ月で利用者は1億人を突破した。21年9月までの情報を基に回答するが、23年5月からは有料版(月20ドル)で最新の検索結果を反映できるようになった。生成AIにはほかに、米グーグルが開発した対話型AI「Bard(バード)」や、単語や文章から画像をつくる「Stable Diffusion(ステーブル・ディフュージョン)」などがある。

 ――生成AIが質問に対し、人が書いたような自然な文章を返してくるのは驚きました。ただ回答には間違いもたくさんあります。

 「AIの進化は早く、3年、5年たてばレベルが上がり、間違いは減るでしょう。今のチャットGPTは、米国の大学を好成績で卒業した日本語も話せる米国人というイメージに近い。無料版では徳川家の歴代将軍を聞くと不正確な答えが返ってくることがありますが、事前学習したデータが英語に偏っているので仕方がありません。多くの日本人が記憶だけで歴代将軍を答えられないのと同じです。『分からない』と答えられればいいのですが、今は無理やりそれらしい答えを書き出す仕組みになっています。ただ、精度が高い有料版では徳川家の歴代将軍もほぼ正確に答えられるようになっており、進化の早さを感じます」

進化と活用はまだ入り口

 「チャットGPTの能力をうまく作り替えているのが、米マイクロソフトが自社の検索エンジンにチャットGPTを組み込んだ『Bing(ビング)チャット』です。質問からキーワードを抜き出し、ウェブで検索した結果を要約して回答します。チャットGPTの無料版にはない機能です。このように関連サービスは次々と生まれていく。生成AIの活用はまだ入り口に過ぎません」

 ――AIを使うことで人の思考力が落ちるという指摘もあります。

 「チャットGPTの登場は、蒸気機関や車、インターネットの登場に匹敵し、文明社会を変える存在となるでしょう。車も最初は足の筋力が衰えると言われたかもしれませんが、今は社会に欠かせない。AIも一緒で、今後あらゆるサービスを支えるのは間違いありません。回答に誤りがあるから使わない方がいいという近視眼的な議論に終わらず、いち早くルールを作り、人にとって良いものにしていくための議論をするべきです」

AIが決められないことは

 ――AIがすべてを決めてしまうような世界になりませんか。

 「例えば部屋を借りる際に家賃だけで決めるなら簡単ですが、実際には通勤時間、日当たり、部屋の広さなどさまざまな判断要素があります。何を重視するのかは本人が決めるしかありません。国の予算配分も、どの分野を手厚くするかは政府や国会がバランスを考慮して最終判断するしかない。議論の過程でAIを使ったとしても『AIが決めました』では国民は納得しません。論点を整理し、AIの回答をチェックして責任を負うことが人間の役割になるでしょう」

 「私は原稿執筆時にチャットGPTを使います。書いた原稿を読み込ませて感想を聞き、加えた方が良い視点はあるかと尋ねます。回答が参考になる場合もあるし、そうでないこともありますが、指摘の採否を決めるのは私です。大学の同僚に感想を聞いて修正するのと同じです」

北大大学院情報科学研究院の川村秀憲教授

北大大学院情報科学研究院の川村秀憲教授

 ――今後は専門家だけでなく、多くの人が生成AIに関する知識を持つ必要があるのでしょうか。どのような場面で活用が想定されますか。

 「企業による商品・サービス開発、行政による計画立案など、あらゆる場面でアイデアをぶつける相手、考えを整理する際の相談相手としてAIを活用する場面が今後増えるでしょう。チャットGPTなどの生成AIから良い回答を引き出すには、プロンプト(問いかけ)のノウハウが必要です。またAIを使ったサービスをつくるなら、どのようなデータを学習させるかも考えなければなりません」

 「教育でも利用は広がると思われます。チャットGPTに対して、小学生の興味を引き出すような分かりやすい回答を指示すると、例え話を交えて柔らかい表現で質問に答えてくれます。『どうして空は青いの?』という質問に、どれだけの大人が分かりやすく、面白く答えられるでしょうか。回答に多少間違いがあるかもしれませんが、それは大学生を指導する私にもあること。近くにいる大人が『空が青いのは常識でしょ』と答えるよりも、AIに面白い回答例を聞いた方がよっぽど良いと思いませんか」

ニッチな分野にこそ人の役割

 ――これからの時代を生きる子供たちは、AIとともに生きていく時代になりそうですね。

 「それは間違いないでしょう。チャットGPT登場後のアフターAI時代は、国語や算数のように多くの人に求められる汎用(はんよう)的な能力はAIに代替され、ニッチ(隙間)な分野にこそ人の役割が求められます」

サケのふるさと千歳水族館で、イラストを交えてサケの生態を解説するさかなクン=2019年10月

サケのふるさと千歳水族館で、イラストを交えてサケの生態を
解説するさかなクン=2019年10月

 「子供たちは、魚類学者でタレントのさかなクンのように、自分の好きなことをもっと勉強したらいいと思います。彼は大好きな魚の勉強を続け、イラストを交えて分かりやすく魚のことを教えてくれる。でも、多額の費用をかけてさかなクンの知識や経験をAI化する人はいない。ニーズが限られ、経済合理性がないからです。さかなクンのようなAIでは代替できない人材がたくさん生まれるには、ダイバーシティー(多様性)を大切に育む環境がますます重要になるでしょう」
(参考:北海道新聞デジタル発)

コメント

タイトルとURLをコピーしました