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昨年の千早茜さんに続いて、今年も道内から「直木賞作家」が誕生しました。嬉しいですね。北海道新聞のインタビュー記事からです。
「ともぐい」で直木賞受賞の河﨑さん 元羊飼いが描くヒグマの息づかい 受賞会見の中身と横顔
根室管内別海町出身の河﨑秋子さん(44)=十勝管内在住=が第170回直木賞を受賞した。17日の選考会のあと、東京都内で行われた会見で河﨑さんは、牛の絵柄のTシャツと、牛の耳に付ける黄色い耳標を模したピアスで登場して牛への愛を全身で表現。北海道への熱い思いも語りました。会見の主なやりとりと、河﨑さんの横顔、受賞作「ともぐい」について紹介します。(文化部 山本哲朗)
かわさき・あきこ 1979年、根室管内別海町生まれ。北海学園大経済学部卒。2012年「東陬遺事(とうすういじ)」で北海道新聞文学賞、2014年「颶風(ぐふう)の王」で三浦綾子文学賞、2019年「肉弾」で大藪春彦賞、2020年「土に贖(あがな)う」で新田次郎文学賞。2022年「絞め殺しの樹」で第167回直木賞候補。十勝管内在住。
――受賞おめでとうございます。今のお気持ちは。
「喜びの渦に巻き込まれ、地に足がついていないような状態。北海道の尊敬する先輩作家たちが芥川賞、直木賞をとられ、すばらしい作品を残されています。憧れのようなものがある直木賞をいただき、本当にうれしい」
――受賞作「ともぐい」は過去に書いた小説を改めて世に出したい、という情熱から書き直した、と聞きます。
「30歳くらいの頃、14年ほど前に書いたもの(2010年の北海道新聞文学賞最終候補に残った『熊爪譚=くまづめたん=』)がありまして、もう一回、長い形で新しい世界を作り直す過程を経て、今回の作品ができあがりました。文章表現という意味では14年前のものを読み返すと、とても未熟で恥ずかしいのですが、こういうものを書きたいというプリミティブ(根源的)な自分の要求みたいなものが詰まっていました。きちんと肉付けをして読む人のことを考えて物語を作り直した上に、最初の原動力を再現して書き上げられたことに満足しています」
――読む人の感情を揺さぶりたいということが執筆のモチベーションと聞いていますが、直木賞受賞でさらに多くの人を揺さぶりそうです。
「とてもうれしいこと。子供の頃から本が大好きでした。道東の端で周囲に同級生もいない環境で、読書が一番の娯楽。本を読んで世の中、世界を知ることを経験してきた。今は自分が書く側に回り、子供の時に感銘を受けたように、私の本を読んでくれた人の心に何かを届けられたら、と思っています」
――「ともぐい」は「熊文学」と評判になっています。
「(文芸誌での)連載当時は熊文学の看板はなく、単行本の帯に『熊文学』とつきました。主人公の名前も熊爪(くまづめ)ですし。熊のいるところで生きて、熊と戦い、熊にあらがうなどすべてを通して、熊文学というふうに捉えてくれて構わないですし、これは熊文学ではない、はみ出る部分があると考えるなら、それも読んだ方の正解として捉えていただいてよろしいのではと思います」
――今後も北海道内で創作活動を続けるのですか。
「道外に居を移す予定は今のところないです。よほど運命的なものがあれば(別)ですが、今のところは出たくないと思っています。生まれ育った場所ですし、暑いのが苦手なので。暑いと体が弱って文章が書けなくなってしまう。まだまだ北海道で調べたいこと、掘り出したいものがあるかなと思います」
「主人公は熊と同化したいという願望を持っていますが、かなえられない。読んだ方を物語の中に引き込み、おのおのでジャッジしてほしくて膨らみを持たせて書きました。いろいろな見方、解釈をしてほしいと思っていたので、(選考委員の議論は)ありがたい」
――北海道で酪農に従事していましたが、北海道での暮らしは小説にどう関わっていますか。
「農家に生まれ、綿羊を飼育し、熊と近い地域で暮らしていました。冬の寒さや熊が出そうな場所は五感で感じていた。熊と闘ったことはないですが、先人の残した文書や言葉と、自分の五感の経験値とが結びついて物語の中で再現できたことはあった。これからも北海道で書きたいものはいろいろあり、書かなきゃと思う。ただ、今までと同じものを書いて『拡大無しの再生産』になってはつまらない。より深く、より広く自分の力をつけながら、頑張っていきたい」
――会見を締めくくるにあたり、おっしゃりたいことは。
「今年は元旦から地震やいろいろなことがありました。大変な思いをされている方がたくさんいらっしゃると思います。そんな中で物語が何ができるのか、小説が何ができるのか。短時間で結論の出ることではないけれども、今回、受賞した側の作家として現実をどういうふうに見て、これから一体何を目指していくのかを、改めてえりを正して考えて研さんを重ねたいと思います」
■新たな「熊文学」
受賞作「ともぐい」は、明治後期の釧路管内白糠町など道東が舞台です。人里離れた熊の生息域の山中で、単発の村田銃と1匹の犬だけで熊に挑む猟師・熊爪。冬眠しない熊「穴もたず」、それを上回る難敵「赤毛」など凶暴な熊に挑み、山の覇権を競う「ともぐい」のような荒々しい生きざまを見せます。真意の読めない盲目の少女との出会いや、日露戦争前のきなくさい時代の変化などに戸惑いながらも、生きる意味を求めます。
同作が生まれたきっかけは、明治から昭和初期の道内の猟師の手記を読んだことだそう。現在の狩猟や登山とは全く違う技術で、山中で1人、猟をする寡黙な猟師の姿を参考にしたそうですが、熊爪の破天荒な人物像にはモデルはなく、河﨑さんの創作です。
この作品は「令和の『熊文学』が誕生」と話題になりました。熊がテーマの小説はこれまでにも、吉村昭さんの「羆嵐(くまあらし)」や「熊撃ち」、戸川幸夫さんの「羆風(くまかぜ)」、志茂田景樹さんの「黄色い牙」、畑正憲さんの「青い闇の記録」、増田俊也さんの「シャトゥーン ヒグマの森」などがあります。そうした「熊文学」の系譜に連なる作品と言えそうです。
現実に熊による被害が増える今、本作は人と熊の関係を改めて問うことにもなりました。河﨑さんは「小説が現実社会とリンクしてメッセージ性を帯びてしまうのは時折起こる偶然です。2022年、コロナ禍の中でエキノコックスが題材の『清浄島』を出したことも同じ」と言います。一方で、北海道の熊問題について「ともぐい」を踏まえて理解を求めます。「ヒグマは間違いなく一対一で人間を殺し得る生き物。互いにテリトリーを守らねば生きていけません。野生動物と人間は適切な付き合い方、距離の取り方が必要。農業者としては生活、産物、何より命を守らねばならない。被害があるなら駆除なり対策を自治体なりにお願いし、行動を起こすのは当然で許される防衛なのです」と農家の立場からも訴えています。
(参考:北海道新聞ニュースエディター)
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