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なまらあちこち北海道|「ウポポイ博士」と呼ばれる小樽の中学生

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小樽に「ウポポイ博士」と呼ばれる中学生がいます。
その名も小川神威(かむい)さんです。いかにもアイヌ文化を背負っているという名前ですね。

「ウポポイ博士」小樽の中学生・小川神威さんが80回近く通う魅力

ウポポイを巡る小川さん(井上浩明撮影)

ウポポイを巡る小川さん

 やや曇った日曜日の午前8時50分ごろ。「遅いですよ」。施設前で待ち合わせた小川さんは言いました。いつもは午前9時の開場の30分前にはゲート前で待っているそう。入場ゲートがあるエントランス棟には既に5、6人が並んでいました。土曜日や日曜日は、午前10~11時台が混むので「ゆっくり静かに見るなら朝一番に来るのがおすすめです」と小川さん。

 「久しぶり」「元気?」。ゲートをくぐると、職員が小川さんに次々と声をかけてきます。ウポポイに80回近く通う小川さんは、職員ともすっかり顔なじみで、親しげに言葉を交わします。

民族共生象徴空間(ウポポイ)


 アイヌの歴史・文化を学び伝えるナショナルセンターとして2020年7月に開業した。2009年に政府の「アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会」の報告書で「民族共生の象徴となる空間」の整備が提言されたことを受け、2014年に胆振管内白老町での整備が閣議決定された。敷地面積は約10ヘクタール。中核施設の国立アイヌ民族博物館、国立民族共生公園、慰霊施設からなる。総工費約200億円。2019年に施行されたアイヌ施策推進法(アイヌ新法)に基づき、アイヌ民族文化財団(札幌)が運営する。開業から2023年7月11日までの3年間の累計入場者数は89万0573人。政府は年間100万人の入場者数を目指している。

定期的に替わる展示にワクワク

 まず向かったのは中核施設の国立アイヌ民族博物館。2階にある基本展示室に、神や先祖へのお供え物として使われるイナウ(木幣)やアイヌ民族の着物が並んでいます。男性用と女性用とで文様や色の使い方が違います。小川さんは「縫い目の繊細さにひかれる。展示されている着物は2~3カ月おきに替わるので毎回、テンションが上がる」と笑顔で話します。通い続けるからこその楽しみですね。

国立アイヌ民族博物館で着物を眺める小川さん(井上浩明撮影)

国立アイヌ民族博物館で着物を眺める小川さん

 小川さんがアイヌ文化に興味を持った背景には両親の存在があります。名前の読みの「カムイ」はアイヌ語で「神」の意味。両親は伝統弦楽器トンコリの奏者OKI(オキ)さん=上川管内当麻町在住=の音楽が好き。言葉の意味や音の響きから小川さんの名前を決めました。小川さんが幼いころから、家族でアイヌ関連のイベントに出かけてきました。

 小川さんはウポポイ開業でアイヌ民族への関心が高まり、「アイヌ神謡集」をまとめた知里幸恵に関する漫画や関連書籍を読むようになりました。「物を大切に使ったり、自然と共存したりする暮らしに魅力を感じる」という小川さん。長期休みの度に、1人で小樽からJRを乗り継いで白老町に来て祖母宅に泊まり込み、ウポポイに通っています。

 小川さんがウポポイで熱中しているのが、アイヌ文様の刺しゅう体験です。工房に移動し、受付で午前10時からの刺しゅう体験の予約をしてから、伝統的な生活を体感できるチセ(家屋)が再現された伝統的コタンエリアに向かいます。時間を有効に活用する工夫です。

真剣に刺しゅうに取り組む小川さん

真剣に刺しゅうに取り組む小川さん

黙々と刺しゅう体験

 伝統的コタンで、文化解説プログラム「ウパㇱクマ」でムックリ(口琴)の演奏を聞いてから再び工房へ。小川さんは刺しゅう体験に参加しました。テーマはアイヌ文様を施したコースター。1辺10センチほどの布に小さな輪をつなげるチェーンステッチ(鎖縫い)という手法で、文様をかたどっていきます。小川さんによると「輪を小さくすると見た目がきれいに見えます。輪を作る際に針を布から出す長さをできるだけ短くするのがコツ」だそうです。慣れているだけあって、30分ほどで作品は完成しました。初心者なら1時間ほどかかります。小川さんは、これまで作ったコースターを縫い合わせて、タペストリーを制作しています。「いつかは着物も作ってみたいな」と夢を語ります。

完成したコースター

完成したコースター

小川さんが作ったタペストリー(本人提供)

小川さんが作ったタペストリー

 午前11時からは、伝統的コタンの「シノッチセ」(遊びの家)で行われている伝承プログラムの一つ「ウポポ(座り歌)」に参加しました。ウポポはシントコ(酒などを入れる容器)のふたを囲んで女性たちが車座になり、ふたを手でたたいてリズムをとりながら輪唱します。

「シノッチセ」でウポポを実演するスタッフ

「シノッチセ」でウポポを実演するスタッフ

記者もウポポ体験に参加

 ウポポ体験は、参加する日によって異なる歌を歌います。この日歌ったのは、白老町で歌い継がれている五つの異なる歌からできたものの一節です。ふたをたたく4分の2拍子のリズムに合わせて、「ヘクリ サラナ」(神様のしっぽだよ)の後に、かけ声の「ハハ ホーハホー」を続けます。

 外国人を含め15人ほどいた参加者や小川さんと一緒に、記者も歌ってみました。スタッフの歌に続いて輪唱しようとするのですが、うまくいきません。チセ内に自然と笑いがこだましました。

 体験を終えると、小川さんが「楽しかったでしょ」。ウポポはアイヌ民族の祭りのときなどに歌う。記者はこれまで、ウポポイの展示や伝統芸能の公演を見るだけでした。実際に体験してみることで、アイヌ民族の豊かな文化をより身近に感じることができました。

「シノッチセ」でウポポ(座り歌)を楽しむ小川さん

「シノッチセ」でウポポ(座り歌)を楽しむ小川さん

 あっという間にお昼です。小川さんは祖母が持たせてくれたおにぎりをほおばると「ウエカリチセ」(体験交流ホール)に向かいました。伝統芸能が上演されるのです。「人気の演目は早めに整理券を取らないと座れなくなってしまう」と小川さん。実際にこの日も定員303人のホールの全席が埋まりました。

 小川さんのおすすめプログラムは、今年4月から始まった「イメル」。ムービングライトやスモークマシンを取り入れ、貴重な音声記録や映像資料から復元した伝統の歌や踊りを披露するものです。最先端の技術と伝統的なアイヌ文化が融合された公演に魅了され、小川さんも記者も気づくと大きな拍手を送っていました。

ムービングライトやスモークマシンを取り入れた「イメル」(公財・アイヌ民族文化財団提供)

ムービングライトやスモークマシンを取り入れた「イメル」

全身で感じるアイヌ文化

 「ウポポイ博士」小川さんとのウポポイ巡りはこれで終了。あっという間でした。最後に、小川さんに聞きました。ウポポイの楽しみとは?
「博物館ではアイヌの民具や資料を見ることができるけど、やっぱり面白いのは体験プログラム。初心者の方にもぜひ楽しんでほしい」。
小川さんは言葉に力を込めます。歌う、刺しゅうをする、公演を見る…。ウポポイは、さまざまな体験を通じて、アイヌ文化を全身で感じることができる場所だと思いました。
ウポポイ外観

ウポポイ外観

 

アイヌ文化復興拠点「民族共生象徴空間(ウポポイ)」

●住所 胆振管内白老町若草町2丁目3
●料金
・1日入場券
大人1200円(団体・960円) 高校生600円(同・480円)
中学生以下無料※団体は20人以上。
・年間パスポート
大人2000円 高校生1000円 ※博物館特別展料金などは別
●開館時間(2024年3月まで)
・7月1日~8月31日は午前9時から午後8時
・9月1日~30日は平日午前9時~午後6時、土日祝日は午前9時~午後8時
・10月1日~31日は午前9時から午後6時
・11月1日~24年3月31日は午前9時から午後5時
●休館日
・月曜日(祝日または休日の場合は翌日以降、ただし8月14日、9月19日、2月5日は開館)
・年末年始、冬期(12月29日~1月3日、2月20~29日)
●ホームページ https://ainu-upopoy.jp/

(参考:北海道新聞デジタル発)

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