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なまらあちこち北海道|園児が喜ぶビー玉転がしの世界・保育士の超絶アート

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ビー玉で遊ぶ、なんていうのは「昭和」の時代のような気がしますが、遊びに時代は無いのですね。ビー玉転がしの世界で園児たちが夢中にな空間がありました。

「ビー玉転がし」の世界へようこそ 現役保育士が作る超絶アート

壮大なスケールの「ビー玉転がし」作品と制作した金子周平さん(熊谷洸太撮影)

壮大なスケールの「ビー玉転がし」作品と制作した金子周平さん

 やや急な斜面に家並みが連なる様子は、まるで異国のリゾート地か、ファンタジーの世界にある迷宮のよう―。札幌市内の民家の一室に、壮大な「ビー玉転がし」の木製アート作品が設置されています。作品は壁一面を埋め、路地を縫うように置かれたレールの上をいくつものビー玉が「カタカタ」と小気味よい音を立てて転がります。この超絶アートを生み出したのは、現役保育士の金子周平さん(34)。保育園の子どもたちの笑顔が見たくて作り始めた木工は、より安全性を高めながら、だんだん巨大に進化。子どもの成長に役立つ「木育」も注目される中、「いつか、ビー玉のミュージアムを作りたい」と夢は膨らみます。

かねこ・しゅうへい

 1988年、札幌市生まれ。経専北海道保育専門学校を卒業後、2010年に同市内の保育園に保育士として勤務。木とビー玉を使ったおもちゃを作り始める。おもちゃ作家として技術を身につけたいと一念発起し、2018年に道立旭川高等技術専門学院の造形デザイン科で家具作りを学ぶ。卒業後は、札幌に戻り、保育士として働きながら2022年に念願のアトリエを開設した。

「アトリエマーブル」の入り口(熊谷洸太撮影)

「アトリエマーブル」の入り口

部屋の仕切りにもオブジェが飾られたアトリエ(田口谷優子撮影)

部屋の仕切りにもオブジェが飾られたアトリエ

 「ビー玉と木のおもちゃ アトリエマーブル」

手稲山の山裾に広がる住宅街にあるアトリエは2022年オープンしました。金子さんが数年前に借りた2階建ての民家で、自宅と工房を兼ねています。

 アトリエのシンボルである壁一面の作品「marble machine wall 2」の大きさは、縦2・3メートル、横3・2メートル。アトリエを訪れた親子らは、例外なく驚きの表情を見せます。作品は奥行きもたっぷりあるため、床に座ったり、背伸びをしたりして、建物や街路樹、ドングリで作られた人形に目を凝らします。

金子さんが描いた「ビー玉転がし」のデザイン画(熊谷洸太撮影)

金子さんが描いた「ビー玉転がし」のデザイン画

巨大な「ビー玉転がし」を制作中の金子さん(本人提供)

巨大な「ビー玉転がし」を制作中の金子さん

 アトリエのシンボルにしたいと、2021年夏から制作に着手しました。当初は、街と言えるほど家々は密集しておらず、ビー玉を走らせるレールも壁面に沿って直線的に並ぶだけ。2022年4月にお披露目した後、作品を眺めるうちに金子さんは「この街はまだ発展途中なんじゃないか」と気付きました。2022年冬から約3カ月をかけて、作品を大幅に改良しました。

 改良作では、高さ数センチから数十センチまでさまざまな大きさの端材を家に見立てて数百個並べ、遠近感を表現した緻密な作りにしました。街全体は緑で覆われ、ブルーに着色した端材で作った湖面にはボートを浮かべました。レールは木や針金で作られており、所々に金属製のチャイムがぶら下がっています。転がってきたビー玉がチャイムに当たると、「チン」とかれんな音が鳴ります。壁面に沿ってモーターの力でビー玉が垂直に上昇していく仕掛けを使うと、ビー玉が街の隅々まで電気などのエネルギーを届けるかのように、数十秒をかけて循環するのです。

「ビー玉転がし」に見入る親子(田口谷優子撮影)

「ビー玉転がし」に見入る親子

 創作の原点は、子どもたちが目を輝かせて、おもちゃで遊ぶ様子にあります。
13年前、保育士として初めて勤めた札幌市内の保育園で、おもちゃを作り始めました。
当時は、担当のクラスを持たない立場だったため、手作りのおもちゃを持ち込んで一緒に
遊ぶことで、園児たちと仲良くなっていきました。「先生! 何か作って」。5歳の男児
が紙の空き箱を持ってきた時、「今まで遊んだことがないおもちゃを作ろう」と挑戦した
のがビー玉迷路でした。

 金子さん手作りのビー玉迷路は、空き箱の中に紙のこびとや、粘土製のドラゴンも置かれ、園児たちの間で引っ張りだこに。ところが、あまりの人気に1週間でボロボロになってしまいました。「子どもたちが安心して遊べる、壊れないおもちゃにしよう」と木枠で迷路を作り直しました。温かみがあって丈夫な木と、ビー玉の組み合わせがしっくりきました。

ビー玉の魅力を語る金子さん(熊谷洸太撮影)

ビー玉の魅力を語る金子さん

 素材にビー玉を選んだ理由について、金子さんは「キラキラして、直感的に希望や未来を感じられる」と言います。光によって表情を変える美しさ、玉の中の小さな気泡、のぞくと景色が反転して見えるなど「見ているだけで心が躍ります」。

 子どもが遊ぶことを想定した作品は、遊んでも簡単には壊れない強度を持ち、万一、子どもがなめても大丈夫なように自然塗料で着色しています。使う木材は、主に端材。道内の木材販売店などから購入しています。灰褐色のハンノキ、帯状の模様が特徴的なミズナラといった道産材などを使います。

飛行艇に乗ってかつて住んでいた街を訪ねた「ハザイジン」(熊谷洸太撮影)

飛行艇に乗ってかつて住んでいた街を訪ねた「ハザイジン」

 街の成り立ちには、物語があります。

 「はるか昔、ビー玉が走る不思議な街に、高度な文明を持つ『ハザイジン』が暮らしていた。だが、未知のウイルスがまん延し、ハザイジンは街を離れることに…。数千年後、ハザイジンが飛行艇で街を訪れると、ウイルスに抗体のあるドングリジンが新たな文明を築いていた」

 物語は金子さんの創作です。作品を見ながらイメージを膨らませてきました。金子さんは「作る作品によってひらめき方が違う」と話します。森を歩いて木の実などの素材に触れたり、保育士として子どもと過ごす中で、大人の想像を超える豊かな発想力にヒントを得たりもします。

 小さな頃からビー玉好きだったのかと思いきや、金子さんは「ゲームっ子」でした。魅力に気づいたのは、保育士になり、おもちゃを手作りするようになってから。「僕自身がそうだったから、今の子どもがゲームやデジタルの世界にはまる気持ちはわかる」と言います。

 作品を見た人の心に「物作りの種を残す」こと。誰もが持っている創造力を刺激する作品や空間を作り出したい―。それが金子さんの原動力です。子どもとコミュニケーションを深める手段として作り始めたおもちゃ。2013年には、手作りのおもちゃを使ってイベントを開きたいと、NPO法人日本グッド・トイ委員会(現NPO法人芸術と遊び創造協会、東京)が認定する「おもちゃコンサルタント」の資格を取得しました。手製のおもちゃで遊ぶ子どもたちを見るうち、「たくさんの子どもに手作りのおもちゃで遊んでほしい。作家になろう」という思いが湧き上がりました。

 金子さんがものづくりの世界に入るのを後押ししてくれた人がいます。2014年、木育をテーマに開いたイベントで出会った、おもちゃ作家の岡田亘さん=上川管内南富良野町在住=です。進路を相談したところ、岡田さんは「(おもちゃ作家は)やってみたら意外とできる」と答えてくれたといいます。金子さんは「人生は1回きり。失敗しても死ぬわけじゃない」と、一度保育士の仕事を離れ、警備員の仕事をしながら制作に励みました。けれども、技術の未熟さを痛感し、2018年に道立旭川高等技術専門学院の造形デザイン科に入学。2年間、ノコギリやカンナの使い方、デザインの考え方などを一から学びました。

恩師の臼杵さん(左)と金子さん(本人提供)

恩師の臼杵さん(左)と金子さん

 旭川高等技術専門学院で指導員をしていた臼杵義哲さん(65)は「初めは、なんで保育士が木工の技術を学びに来たんだろうと思った」と言います。同学院には家具製作会社などに就職するために技術を身につけに来る新卒者が多かったためです。出会ってから数カ月後、臼杵さんは金子さんのアパートを訪ねました。おもちゃ作りをしていると聞き、実際に見たいと思ったからです。臼杵さんは「ものすごい数のおもちゃを作っていて、頭の中のものをどんどん形にする行動力に驚いた」と振り返ります。金子さんの発想を形にする手助けをしたいと思い、より指導に熱が入ったそうです。「今も昔も、才能をリスペクトしています」と臼杵さんは言います。

ビー玉転がし用の板を切る子どもを見守る金子さん(本人提供)

ビー玉転がし用の板を切る子どもを見守る金子さん

 2022年度の国内の玩具市場規模は、前年度と比べ6・7%増の9525億円と、過去最高を更新。玩具業界の専門誌「月刊トイジャーナル」(東京)の編集長藤井大祐さん(50)によると、木のおもちゃも同3・5%増と伸びたそうです。コロナ下、室内で遊ぶ機会が増え、親子でコミュニケーションが取れて、安全に遊べる点などが評価され、木のおもちゃが選ばれたと分析します。

 2010年から、木のおもちゃの普及などに取り組んでいるNPO法人「芸術と遊び創造協会」(東京)は、木のおもちゃを「森のめぐみ」と位置付けます。そして、その魅力として《1》五感を刺激《2》想像力と創造力を育てる《3》命を感じられる-を挙げます。「ゲームなどと違い、おもちゃの側から語りかけてこないため、子どもは主体的に遊ぶようになります」

 アトリエには、巨大なビー玉転がし作品のほか、北海道ならではの手稲山とヒグマのオブジェや、ビー玉を卵に見立てたサケのおもちゃなど大小約150点の作品が飾られています。札幌市出身の金子さんは「北海道で暮らしているので、『らしさ』を打ち出した作品にしたい」と話します。「地元を愛する気持ちを、同じ思いを持った人に届けたい」

 現在のアトリエは、「ビー玉のミュージアム」という大きな夢をかなえるための「モデルハウス」でもあります。アトリエは今も改装を続けています。今後は、車庫を子どもも大人も楽しめる工作室にする予定です。その制作意欲は衰えることがありません。

(参考:北海道新聞デジタル発)

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