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なまらあちこち北海道|空き地でごろ寝、こんな街づくりはいかが?

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狸小路に空き地ができました。だれでも利用でき、人口芝の上でごろ寝もできます。
こんな空き地、欲しい!

札幌・狸小路に突如出現した「空き地」って? 学生も会社員も芝生でゴロ寝

 札幌市中心部の狸小路5丁目を歩いていたら、無骨な鉄骨とフェンスが大きな壁のように組んである一角を見つけました。大きく「空き地」の文字が掲げられています。外から見ると工事現場のように見えますが、空き地とは? 何だか気になります。

7月に狸小路5丁目に出現した「空き地」の看板。鉄骨が組まれた外観が目を引く(石川崇子撮影)

7月に狸小路5丁目に出現した「空き地」の看板。鉄骨が組まれた外観が目を引く(石川崇子撮影)

 「ただの空き地なのかな?」「ドラえもんに出てきそうな空き地じゃない?」。通りかかった人たちが何人も立ち止まり、壁の合間から中をのぞきます。

 思い切って中へ入ってみると-。人工芝の上で、ごろごろ寝転がっている人たちが見えました。

人工芝でできたソファやクッションの上で寝転がる人たち(以下、提供写真以外は村本典之撮影)

人工芝でできたソファやクッションの上で寝転がる人たち(以下、提供写真以外は村本典之撮影)

 青空の下、芝でできたソファの上で寄り添うカップル。芝のクッションにもたれながら靴を脱いで仲間と楽しそうに話す高校生。気持ち良さそうにうたた寝をする中高年の男性もいました。札幌の街中とは思えないのどかな光景が広がっていました。

 同級生6人と放課後に訪れた立命館慶祥高1年の生徒は、「太陽と風が心地よくて、眠ってしまいそうです」と大きくあくび。友人とスマートフォンで写真を撮っていた北海学園大2年女性(20)は「バイト前の暇つぶしに寄りました。札幌にこんな場所ができてうれしい」と話していました。

 「空き地」は広さ約1300平方メートル。一角に人工芝を敷いて、いすやクッションを置いて寝そべることができるようにしたほか、樹木やベンチなどを配置しています。平日は午後3時から、土日は午後1時からで、いずれも午前0時まで無料で開放しています。地権者の一人で札幌の不動産賃貸業HBUの社長増永隆道さん(42)は「夜は飲み会の待ち合わせ場所や飲んだ後の休憩所としても使われ、会社員も多く訪れています」といいます。

近くの建物から撮影した空き地の全景

近くの建物から撮影した空き地の全景

ひいおじいちゃんの眼鏡店だった

 「空き地」は今年7月20日にオープンしました。ここには日本中央競馬会(JRA)が入る「狸小路五丁目センタービル」がありましたが昨年9月、老朽化のため解体され、文字通りの空き地になっていました。

 もともとこの場では、福井県から入植した増永さんの曽祖父が1926年(大正15年)から眼鏡店を営んでました。創業後、約50年が経過したときに火災で店が全焼。それを機に増永さんの祖父は不動産賃貸業を創業し、1979年に狸小路五丁目センタービルを建てました。

増永さんの曽祖父が営んでいた「アソヅヤ眼鏡店」=増永さん提供

増永さんの曽祖父が営んでいた「アソヅヤ眼鏡店」=増永さん提供

 ビル跡地を更地にしておけば、固定資産税だけでも年間約1千万円がかかるといいます。増永さんは世界的に活躍する建築家、元木大輔さんらにデザインを依頼し、「空き地」として整備しました。

 でも、なぜ利益にならない「空き地」なのでしょうか。他の地権者からは「駐車場にした方がもうかるのに」とも言われているそうです。増永さんは、この地に新しいビルを建てるまでに「市民と対話を続けるための場所」として整備したといいます。背景には、再開発が進む故郷・札幌のまちづくりに対する思いがありました。

「チェーン店はお断り」。26年に飲食店が集うビルを完成

 増永さんは札幌出身。東京の大学を卒業後、有名ブランドやファッション誌のデザインを手がける会社でプロデューサーを務め、家庭を持ちました。6年前、「仕事が楽しくて、やりがいも感じていた」という当時の会社を退社し、2018年に家業を継ぎました。。

 札幌のまちが大きく変わる時期だと考えたからです。中心部では1972年の札幌冬季五輪を機に建ったビルが次々と老朽化し、再開発が進んでいました。増永さんは「道外のデベロッパーや企業が高齢の地主から土地を買い、ホテルや商業ビル、駐車場に変えていく様子を目にしました。ビルにどこにでもあるようなチェーン店やコールセンターが入り、まちが均一化しているように感じました」と振り返ります。

札幌のまちづくりへの思いを語る増永さん

札幌のまちづくりへの思いを語る増永さん

 東京五輪(2021年開催)に向けて、変貌を遂げる首都圏の街並みを見て感じていた画一的なまちづくりが札幌でも進んでいく-。増永さんはそうした危機感を覚えました。「札幌をどうしていきたいか。未来を見据えてまちづくりのありようを描いている人はいないように感じました」

 札幌は自分が生まれ育った街であり、曽祖父から受け継いだ土地を駐車場に変えてしまいたくないと考えました。

 増永さんらは、2026年中に「空き地」のある土地に、新しいビルを開業する計画を進めています。ビルは地下1階、地上3階建てで、道内外の個性的な飲食店や美容サロンなど数十のテナントを入れる予定です。屋上には芝生や植物を植え、「空き地」のようにゴロゴロ寝転がるスペースも整えたいといいます。

狸小路で行き交う人々を背に、芝生でくつろぐ空き地の利用者

狸小路で行き交う人々を背に、芝生でくつろぐ空き地の利用者

 「空き地」は来年4月のビル着工までの約1年間の期間限定の試みですが、増永さんは「作って正解でした」といいます。高校生や大学生ら若者が多く訪れるため、一緒に芝に座り込んで札幌のまちづくりへの思いを聞くことができます。新ビルへの入居を検討している飲食店も続々と視察に訪れています。
増永さんは「事務所の会議室でビルの構想やまちづくりへの思いを話すよりも、芝が広がった空き地で話したほうが説得力が増す」といいます。当初は「札幌の中心部は個性がないから入りたくない」と消極的だった道外の飲食店経営者が新ビルの計画を興味津々で聞いてくれるようになったそうです。

工事中も対話をやめない

 増永さんが重視しているのは「対話を大切にしたまちづくり」です。新ビルの工期中も、建設現場の前に幅25メートル、奥行き2メートルほどの細長いカウンターを作り、クラフトビールやジンなどを提供。冬はストーブを置いて、市民や観光客と対話を続け、ビルの構想に生かす考えです。期間限定のこの店を、狭い外観の通り「うすい店」と名付け、開設に向けた準備をしています。

新ビルの工期中に展開する「うすい店」の完成予想図=増永さん提供

新ビルの工期中に展開する「うすい店」の完成予想図=増永さん提供

 来春の新ビル着工まで「空き地」には日替わりでキッチンカーが出店し、週末にはさまざまなイベントを開催します。現在はデンマークのクラフトビール醸造所「Mikkeller(ミッケラー)」が10月末まで長期出店しており、6種類のビールを1杯750円から販売しています。冬場は積雪を生かした催しも企画しています。

香りが華やかなラガー(左)と、苦みが強いIPAのビール

香りが華やかなラガー(左)と、苦みが強いIPAのビール

 札幌の新たなスポットづくりに奮闘する理由を、「地主として街への責任があるからです」と語る増永さん。会社を継いだときに変えた社名のHBUは英語で「あなたはどう」を意味する「How about you?」の略で、次のような思いが込められています。

 「『僕の街への思いはこうだけど、君はどう?』と問い掛けていきたいんです。空き地を通して、みんなが札幌のまちづくりを考えるきっかけになればいいなと思っています」。
(参考:北海道新聞Dセレクト)

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