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けん玉で世界とつながる 倶知安出身のプロプレーヤー藤田奏真さんの情熱
日本伝統の遊び「けん玉」は今、世界でストリートスポーツとして注目されています。後志管内倶知安町出身の藤田奏真(そうま)さんは、2020年のけん玉の世界大会で2位に入った実力を誇っています。「けん玉一つで生きていく」と道内の大学を中退して上京。独創的なけん玉の技を披露する動画を自ら編集してSNSに投稿し、国内外にオリジナルの技を発信している毎日です。
「相手が繰り出す技や技を決めたときのリアクションを見れば人柄が分かる」。藤田さんは言います。
「けん玉があれば会話ができるんです」。言葉はできなくても、世界とつながることはできるのです。
けん玉の魅力を教えてくれたのは外国人でした。倶知安中3年のとき、両親が経営していた倶知安町ひらふ地区のイタリアンレストランの片隅でけん玉で遊んでいると、外国人男性客が「オー、ケンダマ!!」と近づいてきました。男性はけん玉を手に取ると、藤田さんが練習中の難しい技を難なく決めて、最後にけん玉の穴に小指を入れるポーズまで見せたのです。
「けん玉はおもちゃだとなめていたら、外国人のテクニックに魅せられた」
と、どハマりしました。同級生も巻き込んでけん玉に打ち込んだのです。
夢を追うか、現実的な道を進むか 悩んだ大学時代
大人になるにつれ、強まっていくけん玉への思い。一方で、大好きなけん玉を仕事にできるのか。別の進路を選ぶべきではないかと高校、大学へ進学するうちに悩む日が増えていきました。
自分の実力を試そうと、倶知安高1年生の時の夏、広島県で行われたけん玉のワールドカップに出場しました。結果は約400人中、47位。米国やデンマークなど、国外から参加した選手が上位に入っていまし。外国人選手の活躍を目の当たりにして「めっちゃ悔しいけど、もっと上に行けるんじゃないか」と奮起。猛練習し、翌年同じ大会で21位に入りました。けん玉をする様子を自ら撮影、編集した動画をインスタグラムに投稿すると、海外の人から反応が届くようになりました。
ニセコ地域で観光客向けのホテルの開発を見て育ったこともあって建築に興味を持ち、星槎道都大の美術学部建築学科に進学しました。勉強、そしてその先の就職についても考えましたが、けん玉熱は増す一方でした。
大学1年の時に東京で開催されたフリースタイルけん玉の世界大会で4位、翌年、コロナ禍のためオンラインで開かれた大会で2位になると、デンマークのけん玉メーカーと日本のファッションブランドの2社がスポンサーにつき、大会の遠征費を支援してくれるようになりました。
「このままけん玉を突き詰めたら絶対、面白い人生になる」
迷った末にけん玉に専念することを決め、3年のときに休学しました。
「故郷の自然が、現在のパフォーマンスのアイデアにつながっている」と話します。
動画配信で海外のファンの心つかむ
休学後すぐに後志管内仁木町農家でアルバイトをしてお金をため、上京しました。東京には世界大会で出会った仲間がたくさんいたからです。日々、仲間とともに練習。技を磨き、イベント出演や動画配信など、けん玉を仕事にする大人とも知り合い、刺激を受けました。
休学期間が1年に達した昨年、このまま大学に在籍するかどうか考えました。「けん玉で生きていく」と決意して大学を中退。千葉県在住の仲間と4人組のクルー「HIGH RECEIPT.s(ハイレシーツ)」を結成し、千葉に移り住んでけん玉の動画制作を始めました。
フランス・パリや東京の観光名所で4人がけん玉をする様子を映した動画には、海外の人からたくさんの「いいね」がつきました。現在は、動画クリエーターとしてけん玉仲間の動画も制作し、生計を立てています。
北海道のけん玉をもっと面白くしたい
「親はゲームを買ってくれなかったけど、バスケットボールやトランポリン、スケートボードなど外で遊ぶ物なら何でも買ってくれた。どう遊ぶかは自分次第。ボール一つから新しい遊びを考えたり、冬は弟と雪山でスノーボードのコースを作ったりしたことが、今に生きている」
そう笑顔で語ります。
今楽しいことを突き進め!
けん玉に情熱を賭ける日々ですが、大学への進学時、休学後に中退を決めた時、就職せずけん玉で生きていくと決めた時。大きな決断を下す時、いつも「未来ではなく、今自分が楽しいと思うことを選んできた」と振り返ります。
「やりたいことを見つけるために必要なのは、自由な時間。あすもあさっても何もやることがない時、何をするかと自分に問い掛けてほしい。そこで思い浮かんだことが、きっとあなたの好きなことだと思うから」
「やらなきゃいけないことがなくなったときに、僕はやっぱりけん玉をした。けん玉を本気でやりたいから、けん玉でお金を稼ぐためにはどうしたら良いのかを本気で考えた」
と振り返ります。じっと前を見据えて言います。
「夢のことを考えるとワクワクするし、面白いじゃないですか。夢が止まらないように、これからも考えることを僕はやめない」
夢を追う藤田さんをこれからも応援していきます。
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