この記事を読むのに必要な時間は約 9 分1 秒です。
昨年好評だった「ザ・ロイヤルエクスプレス」が2023年も北海道を疾走します。
どこにその秘密があるのか、その魅力に迫ります。
料金80万円超でも大人気 北海道走る豪華観光列車
東急(東京)とJR北海道(札幌)が運行する豪華観光列車「ザ・ロイヤルエクスプレス」が、2023年の7~9月も北海道の各地を駆け抜けます。運行開始から4年目となる今年は過去最多の9回運行し、宗谷線で最北のまちである稚内市へ入る新たなツアーもできました。
3泊4日の旅の1人当たりの基本料金(2人1室利用)は、なんと82万~88万円。高額ですが、毎年申し込みが殺到するといいます。なぜそんなに人気なのでしょう。
同じ車両を使い、2月1日にJR横浜駅―伊豆急行線伊豆高原駅(静岡県)間で行われた報道機関向けの体験乗車会に参加し、魅力に迫りました。(東京報道センター 米田真梨子)
ザ・ロイヤルエクスプレスは、2017年にデビューしました。普段は横浜駅と伊豆エリアを結ぶルートで、他の列車の運行ダイヤが過密になる夏場を除いてほぼ毎月走っており、運行回数は年間で計40~50回ほどに上ります。
今年は9回運行
運行が北海道で始まったのは2020年。道内で初めて震度7を記録し、死者44人を出した18年の胆振東部地震からの復興支援が目的でした。新型コロナウイルス禍もあり、20年の運行は3回でしたが、21年は7回、22年は8回と徐々に増えました。
ツアーは札幌発着の3泊4日。途中駅から専用バスも使って、観光地を巡ります。ザ・ロイヤルエクスプレスに寝台はなく、各地のホテルに宿泊します。23年は十勝や釧路、知床などを周遊する以前からの二つのツアーと、旭川から稚内へ入る新ツアーの3種類あり、計9回の運行を予定しています。
車両に入ると、白いジャケットを着たクルー(乗務員)たちがにこやかに案内してくれ、旅への期待が高まります。8両編成の車両の内部は1両ごとにデザインが異なります。ステンドグラスを天井に施しているものもあれば、木を組み合わせる伝統技法「寄せ木」を床などに使っているものもあり、豪華ながらも落ち着いた雰囲気。
東急の社会インフラ事業部クルーズトレイン推進グループ統括部長の松田高広さん(51)は「既製品は使わず、一つ一つ手間をかけてつくり上げられた車両です」と説明します。
道産食材たっぷりの料理
駅を出発すると早速、料理が提供されました。今回は、北海道内の運行でも料理を担当するシェフ2人が乗り込んで調理してくれました。道産食材がふんだんに使われています。
まず、上の写真手前にある長方形の皿で出されたのは「ポワローネギと黒豚のテリーヌ~山葵(わさび)の香り~」です。札幌市西区の農園レストラン「アグリスケープ」のシェフ吉田夏織さん(44)が手掛けました。吉田さんたちが自ら農園で生産したネギや卵、黒豚を使っており、それらが調和して醸し出されるうまみがたまりません。
今年初めてザ・ロイヤルエクスプレスで料理を提供する吉田さん。「(農園は)自然が相手なので、毎年同じものを作れるわけではありません。9月の北海道を表現できる料理を作りたいですね」と笑顔で話してくれました。
写真中央の小さい円い皿は「シタカラ農園 無農薬無肥料豆のタルト」、左側の大きい円い皿は「羊のヨーグルト ビーツのシロップ」。羊のヨーグルトなんて珍しいと口に運ぶと、とてもまろやかな味わいに驚きました。
提供した釧路管内鶴居村(北海道東部)のファームレストラン「ハートンツリー」のシェフ服部大地さん(30)が、「羊のヨーグルトは牛のものより脂肪分が多いんです。希少なものですが、道東に来てくれたときにはぜひ味わってもらえるといいなと思って」と話してくれました。服部さんも今年初めて参加します。
飲み物も北海道産
飲み物も北海道産ばかり。後志管内余市町(北海道西部)のワイナリー「ドメーヌ タカヒコ」や十勝管内池田町(北海道東部)の「池田町ブドウ・ブドウ酒研究所」のワインなどを、乗務員がひとつずつ説明しながら提供してくれます。少し変わっているのが、脚のないグラスとゴム製のコースター。車内の揺れで倒れないための工夫です。
揺れる車内で料理を提供するのは難しいのでは?と思って聞いてみると、乗務員は「安全第一でお出ししています。私たちは日々乗車しているので、(バランスを取るように踏ん張ることで)足腰が鍛えられています」と冗談交じりに楽しく話してくれました。
乗務員はザ・ロイヤルエクスプレスの専任で、東急の広報グループによると「彼らは接客のプロ」。乗務員の数は道内運行では13人で、伊豆の14人とほぼ変わりません。
生演奏も
食事を楽しんでいると、音楽の生演奏が始まりました。「音旅演出家」でバイオリニストの大迫淳英さんが、オリジナル曲「ザ・ロイヤルエクスプレス 北海道の旅」を披露。軽やかな音色が満ちる中、流れゆく車窓の景色を眺める。日常ではなかなかできない経験です。
地域住民がおもてなし
こうしたもてなしは、北海道でも各地で行われており、乗客に喜ばれています。
釧網線はJR北海道が単独では維持困難として、地元負担を前提に存続を目指す赤字8区間の一つ。石黒会長は「釧網線がなければ、ザ・ロイヤルエクスプレスは道内を周遊できない。釧網線は大事な路線なんだと伝わるといいなとも思っています」と話していました。
■リピート率は30%
乗車の応募はどれくらいあるのでしょうか。ゆったりと過ごしてもらうため、定員は1回あたり最大15組30人に絞っており、チケットは抽選販売です。
道内運行の各年の応募人数と当選確率は、2020年は1232人の8・2倍、21年は426人の2・1倍、22年は438人の2・6倍でした。お金と時間に余裕がある70代の夫婦の利用が多いそうです。
東急の松田さんは「(1度乗車した人が再度申し込む)リピート率は伊豆で10%強ですが、北海道は30%を超えています。北海道の魅力は本当にすごい」と驚きます。
採算は?
こうした豪華観光列車は、JR九州が2013年10月に始めた「ななつ星in九州」が先がけです。その後、JR東日本の「トランスイート四季島」、JR西日本の「トワイライトエクスプレス瑞風」などが続き、人気を集めています。
ただ、いずれも単体では利益はそれほど出ていないようです。豪華観光列車は一般に、車両開発にかける初期投資が重い上、たくさんの乗務員も必要になるため、料金が高いわりに収益性は低いとされています。ザ・ロイヤルエクスプレスについても、東急広報グループは「収支は厳しい状態です」と言います。
しかも、北海道で運行するには、道内まで車両を鉄路で運ばなければなりません。電化していない区間が多い道内を運行する際は、JR北海道の機関車がザ・ロイヤルエクスプレスを引っ張ります。機関車と客車の間には、車内で使う電気を供給する白い電源車が入ります。このため、道内運行の際は毎回、車両の屋根にある電流を取り込む装置「パンタグラフ」を取り外しているそうです。通常は8両ですが、電源車の容量の関係で、道内では5両に減らしています。
横浜市などで多摩田園都市を開発したことで知られる東急グループ。実は道内にもバスやリゾート施設など、多様な事業を展開しています。松田さんは「マチを豊かにすることで、そこから新しいビジネスの種も生まれ、私たちのチャンスにつながるかもしれません」と話し、2024年以降も道内で継続してザ・ロイヤルエクスプレスを走らせる方針を示しました。
行き先についても、「お客さまの声を聞くと、道内でも西や南と、他にも行きたいところがいろいろある。できるだけ多くの北海道の素晴らしいところを伝えられる舞台をつくりたい」と意欲的です。
ローカル線の再評価に
ザ・ロイヤルエクスプレスの道内運行は、鉄路の存続が危ぶまれる北海道にとっても意味がありそうです。JR北海道は、慢性的な赤字が続く鉄道事業の見直しを進めています。この車両やななつ星をデザインしたドーンデザイン研究所主宰のデザイナー水戸岡鋭治さん(75)は「北海道は線路の位置や環境を考えると、日本一のローカル線。他では見られない景色が見られる。ちゃんとした豪華観光列車が走ればヒットする」と分析します。
経営の厳しい地方の鉄道事業者が豪華観光列車を運行するのは難しいため、東急のような首都圏などの鉄道事業者が車両を作って地方で走らせればいいと指摘。「いまは(東急とJR北海道が)“実験”をやっているようなもの。北海道での実験が成功して、他地域でも同様にすれば、ローカル線がもう一度見直される可能性がある」と期待します。
(参考:北海道新聞ニュースレター)
【スポンサーリンク】
リアルチケットの格安航空券
コメント