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なまらあちこち北海道|養蜂家、菅野さんの一年・訓子府

グルメ

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養蜂家業は花を追って、一年中旅をします。春から秋の終わりまで。養蜂家にとって冬はしばしの休養期間です。そんな養蜂家の姿を追いました。

くんねっぷの養蜂家 菅野さんの1年 12月は創業90年へ英気養う

菊枝さんの手料理を食べながら今年1年を振り返る菅野さん一家。サケの南蛮漬けや大学芋など、甘味は全てハチミツでつける=16日(星野雄飛撮影)
菊枝さんの手料理を食べながら、今年1年を振り返る菅野さん一家
電動ドライバーで巣箱を組み立てる3代目の富二さん=13日(星野雄飛撮影)
電動ドライバーで巣箱を組み立てる3代目の富二さん

湧別町
 静岡県伊豆市にミツバチの巣箱を運んだ菅野さんは、訓子府の自宅に戻り、年に1度の「休暇」を過ごしています。古くなった巣箱を直したり、顧客宛ての年賀状を書いたり。年明けに再び伊豆へたつ日まで、一家だんらんの時を過ごしています。
 13日朝、町常盤の倉庫。まきストーブがパチパチと燃える傍らで、3代目の富二さん(74)がカンナの歯を研いでいました。傷みがひどい古い巣箱を新調するということです。
丈夫な国産杉の芯材から50以上のパーツを切り出し、電動ドライバーとトンカチで組み立てていきます。
「手間はかかるけど、自分で作った方が長く使えるんだよ」
最後にカンナで面取りすれば完成です。

50年使う青巣箱

 毎年30~40箱を新調し、何度も修理して使います。倉庫の奥には、古くからの巣箱の在庫が積み上がっていきます。
「これはおやじが作ったやつだね」
と指さすのは、表面の青いペンキがかすれた箱。50年以上前、先代の父裕保さん(故人)が作ったもので、まだ現役だ。この箱には苦い思い出が詰まっています。
 富二さんが鹿児島の養蜂家に弟子入りして2年目の夏、父が飼っていたハチが腐蛆(ふそ)病にかかったそうです。巣の中で幼虫やさなぎが腐って溶ける法定伝染病。父は感染を食い止めるため、飼っていた200箱にガソリンをかけ、常呂川の河川敷で焼きました。
「大事に育てたハチを殺した、おやじの気持ちは計り知れない」
父と二人、一から巣箱を作り直し、「菅野家」の印として青いペンキを塗りました。
 その頃から全国で腐蛆病がはやり始め、病気を恐れる養蜂家はハチに抗生物質を使うようになりました。菅野家もそれに倣ったのです。
「手の皮がむけるほど消毒剤をまいた。当時はそれが当たり前だった」(富二さん)
 しかし薬を使えば使うほどハチは弱り、他の病気にかかる個体が増えたのです。
「自然に近い方法でハチを育てたい」
20年前、同業者の心配をよそに、抗生物質を一切使わないと決めました。
 最初の2年は、腐蛆病の恐怖との戦いでした。病気の兆候を見逃さないよう目を配り、少しでも怪しい巣板は処分する。
「毎日毎日ハチを見ていると、巣箱のフタを開けただけでハチの状態が分かるんだ。最近は目が悪くなって、息子のヒロ(裕隆さん)の方が早く見つけるけどね」
来年5月には、父親が養蜂を引退した年齢に追いつくが
「体が動くうちはハチを見ていたい」
と言います。
 12月に入ると、富二さんの妻菊枝さん(67)は顧客宛ての年賀状を書き始めます。その数400枚。今年の採蜜量や家族の近況など、一枚一枚書き添えています。

最高のぜいたく

 チリン、チリン―。15日昼、ドアベルを鳴らし、町内の相原陽子さん(78)が町仲町の店を訪れました。先代からのお得意様の1人です。北見出身で21歳の時、町内で商店を営む相原家に嫁ぎました。たばこや酒と並び菅野さんのハチミツも売りましたが
「当時は10キロの米より1升のハチミツの方が高値で、とても食べられなかった」
と笑っていました。
 店が軌道に乗り、ハチミツの価格が下がった30年前、菅野さんのハチミツをなめると、子どもの頃食べたのと同じ懐かしい味がしました。
「味も香りも、他のハチミツとは全然違う」
以来30年、朝食のパンに塗って食べるのが日課になりました。
 3人の子どもが独立し、夫と二人暮らしですが、月に1度、600グラム入り瓶を買いに来るそうです。お気に入りはあっさりした味わいのクローバー。
「菅野さんが誠実に作っていると分かるから、信頼して食べられる。少々値段が高くても、私にとっては最高のぜいたくです」
 16日夜、富二さんと菊枝さん、4代目の裕隆さん(34)と妻実里さん(28)、代表の前崎幸男さん(50)が菅野家で食卓を囲みました。菊枝さんの手料理を食べながら、今年1年を振り返ります。

■今年は7.2トン採蜜

 4月のサクラ、5月のタンポポ、6月のアカシアに7~9月の百花蜜―。今年も平年並みの7200キロのハチミツがとれました。
「今年もいい年だったなあ」
と富二さんも満足そうです。
 だが夏の猛暑やハチに寄生するダニの異常発生など、これまでにない環境変化に悩まされた年でもありました。生きて伊豆に到着した巣箱は例年の約4割、140箱ほど。来春に向け、過去最少の箱数から育成が始まります。
 「家族で試行錯誤しながらやっていくさ。いいハチをつくって、いいハチミツを作ってもらう。そこは変わらない」(富二さん)
来年で創業90年。菅野さんの新たな1年が始まります。
(参考:北海道新聞ニュースエディター)
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