この記事を読むのに必要な時間は約 4 分51 秒です。
スキージャンプの金メダル選手・小林陵侑さんがプロに転向しましたね。その決意や思いはどこから来たのでしょうか。インタビューです。
プロ転向の小林陵侑 世界屈指のジャンパーが秘めた思いは
2022年北京冬季五輪男子個人ノーマルヒルで金メダルを獲得したスキージャンプの小林陵侑選手(26)が今月3日にプロ転向を表明しました。師匠である葛西紀明選手(50)らとともに歩んできた土屋ホーム(札幌)を離れ、新たなステップを踏み出した世界屈指のジャンパーが、プロ転向に秘めた思いに迫りました。(運動部 高野裕美)
※この記事は4月14日に紙面化した「プロ転向 小林陵 次世代育つ環境つくる」を加筆し、再構成しました。
こばやし・りょうゆう
1996年、岩手県八幡平市生まれ。盛岡中央高卒。葛西紀明選手にスカウトされ2015年から土屋ホームスキー部に所属し、今年3月末で退職しました。16年からワールドカップ(W杯)に参戦し、18~19年シーズンのW杯で日本男子初の個人総合優勝を果たしています。
22年北京五輪では個人ノーマルヒルで金、個人ラージヒルで銀メダルを獲得。23年世界選手権個人ラージヒルで銀メダル、22~23年シーズンW杯は個人総合5位です。
全日本のレベル強化必要
北京五輪で金メダルを獲得したことが、プロ転向を決意する大きなきっかけとなりました。ただ、以前からずっと今の国内のジャンプ界に危機感を感じていたそうです。
「国内で足りないと感じているのは全日本チームの強化です。世界で戦えるようになるには、レベルの底上げが必要だと感じています。次世代がもっと育ってほしい。そのためには、うまい人のいいところを取り入れてマネをした方がいいです。僕はのりさん(葛西選手)のやっていることを見て、いいと感じたことは取り入れていた。逆に合わないと感じたものはやりません。同じように僕も後輩と一緒に練習したいですし、そのためにチームを抜けたとも言えます」
もう一つ、小林選手が何度も口にしていたのが「ジャンプ界を盛り上げたい」という言葉でした。日本と海外を何度も行き来する中で、スキージャンプがメジャーな欧州での試合と比べると、やはり国内の試合はファンの少なさが目につきます。
「今季は3年ぶりに札幌でもW杯がありましたが、せっかくの大きな国際大会なのにどうして人を呼ばないんだろう、集客でもっとできることがあるんじゃないかなと思いました。日本でも海外と同じくらい盛り上がるスポーツにしたいですね」
高梨選手らと練習を予定
家族のような存在と話していた土屋ホームスキー部、そして師匠の葛西選手の元を巣立ち、今後は自分で練習のパートナーを選んでいくことになります。
「のりさんからは『自分でやるならやってもいいんだぞ』と背中を押してもらいました。ただ、これからもタイミングが合えば一緒に練習させていただく予定です。あと(女子で同い年の)高梨沙羅(クラレ)とも(練習の機会が)多くなると思います」
小林選手のように実業団に所属せず活動している選手は既に国内に複数います。1998年長野五輪金メダリストの船木和喜選手(フィット)、2014年ソチ五輪団体3位の竹内択選手(チームtaku)、北京五輪代表の中村直幹選手(フライングラボラトリー)らがいます。
「(他選手の)金銭面での大変さは見てきていました。(自分も)今まではチームのサポートがありましたが、これからは守ってくれるものがなくなります。それでも、やっぱり自分のやりたいことをやるっていうのは短い選手期間の中で大切だと思っています。欧州の強豪国には、企業に属していない選手が数多くいますが、各国の連盟がしっかり選手を束ねている印象があります」
自身初となった世界選手権のメダル
昨季は世界選手権の個人ラージヒルで銀メダルに輝き、世界選手権では自身初のメダルを獲得しました。W杯は個人総合5位。序盤は不振が続きましたが、小林選手自身は納得のいく結果だと振り返ります。
「世界選手権はずっと表彰台に上がれていなかったので、メダルを取れて良かったです。当時の風や感覚はあまり覚えていないのですが、元々僕はスタート前にあまり考えない。風は最終ファクター(補正点)でしかないので、自分のジャンプをやるだけです。
(昨季は)前半がやばかったですけど、最終的にトップ5に入ることができましたし、優勝できた試合もありました。新調したスーツや道具との相性が安定してきたことで、後半は繊細にバランスを保って飛ぶことができました」
一方で、北京五輪では高梨選手がスーツの規定違反で失格となり、昨季はポーランドで行われたW杯個人第2戦で小林選手も失格となりました。
「スーツの規定違反については誰もカバーしきれないと思います。スーツを作る側も選手の体形に合わせてギリギリで作っていて、シーズン中に無限に作れるものじゃない。そして脚やおなかの細さは一日で変わってしまいます。僕もなるべく変化のないようにしているけど、同じ体形を維持し続けるのは厳しいんです」
「責任を持って発言する」
プロ転向の理由には、競技に対する自らの考えを発信することでジャンプ界がより良い方向へ進んでほしいという狙いもあります。
「ジャンプ界のプロとアマチュアの違いは、会社員か会社員じゃないかしかないです。チームを抜けたことで自分が考えたイベントをできるようになりますし、全日本スキー連盟の体制やルールの見直しについても責任を持って発言できるようになる。国内と海外で異なるルールもあり、選手が対応できず、モチベーションが下がることもあります。僕が一歩踏み出して、ジャンプ界に対する思いを伝えていきたいです」
コメント 感想やご意見をお願いします