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ゴールデンウイークが始まりました。旅行に出かけるのもいいですし、身近な飲食店でゆっくり語り合いながら食事をするのもいいですね。飲食店の魅力は料理だけではありません。常連客など、限られた人しか知らないその店ならではの「お宝」を見られることもあります。コロナ禍からの回復を目指す札幌近郊の飲食店の「お宝」を見に行きました。
■サケの絵 「金大亭」/石狩鍋=石狩市
趣あるのれんをくぐって店に入ると、一枚の板に描かれた生きのいい丸々とした魚体が目を引きました。
「このサケの絵は、店の宝物であり、守り神なんです」。石狩市のサケ・マス料理専門店「金大亭(きんだいてい)」の4代目おかみ石黒聖子さんはほほ笑みます。石狩鍋発祥の店といわれる1880年(明治13年)創業の老舗です。
ぎょろりとした目と青みがかった銀色の魚体、緑色の葉。この絵を描いたのは江別市出身で戦前から野性味あふれる奔放な作風で知られた上野山(うえのやま)清貢(きよつぐ)(1889~1960年)です。北海道の風景や動物の作品が多く、鶴や魚の絵も有名な油彩画家なのです。
上野山は東京大空襲で家屋と多数の作品を焼失。札幌に疎開していた終戦直後の45年秋、石狩川河口に近い金大亭に逗留(とうりゅう)してスケッチを繰り返していました。「お世話になった」と古い船板に一匹のサケを描き、店に残していったということです。それから、この絵は店とともに時を重ねてきました。
石黒さんは絵の話を2代目おかみコウさん、3代目トクエさんから生前聞いていました。「戦後の混乱期、生命感あふれるサケの絵にどれだけ励まされたか」と苦しかった当時に思いをはせました。
石狩鍋はサケ・マスの身や頭、骨といったあらと季節の野菜をみそで煮込む。新潟から夫婦で移住し創業した初代おかみ石黒サカさんが漁師のまかない飯を参考に考案し、北海道を代表する鍋料理となったのです。
薬味のサンショウがサケの風味を引き立てる石狩鍋を、明治期の風情が漂う和室で味わえる同店は、道内外の観光客でにぎわったのです。
しかし2020年以降、新型コロナウイルス禍で客は激減。石黒さんは思い悩んだ。それでも「140年以上続く発祥の一品を守り続けたい」と石狩鍋の継承へ前を向いてきた。今年に入り、客足は以前の8割ほどに回復してきた。幾多の荒波を乗り越えてきた店の心意気を、サケの絵は見続けている。
<メモ>
石狩市新町1。電話0133・62・3011。完全予約制。
午前11時~午後7時ラストオーダー。
石狩鍋がメインに付くコース料理は3千円(7品)から6千円(15品)
いずれも税別。
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