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札幌は上位、函館は下落 夜景順位、なぜ差がついた?
北海道も少しずつ暖かい日が増えてきて、夜にぶらりと散歩しやすくなってきました。夜の街は昼間とは違った姿を見せてくれます。無数の光が織りなすロマンチックな夜景は、旅先だけでなく、いつも住んでいる街の魅力をまた再確認させてくれます。
7年前、初めて札幌に移り住んだとき、旭山記念公園から見えた札幌の街の夜景は圧巻でした。
眼下に200万都市の大きさを感じられ、この街での生活のスタートにワクワクしたものでした。
この夜景の魅力を「見える化」しているのが、一般社団法人夜景観光コンベンション・ビューローです。同法人が認定する「夜景観光士」約4千人が投票して選んだ「日本新三大夜景」が今年3月25日に札幌市内で行われたイベントで発表されました。
今回で3回目となるイベントですが、1位には初めて北九州市が選ばれました。2位が札幌市、3位は長崎市でした。札幌市は3回連続で2位と安定した人気を誇っており、毎回「日本新三大夜景」に選出されています。
ただ、札幌市が上位にいつもランクされているのは、「安定」だけが理由ではないようです。夜景観光コンベンション・ビューローの丸々もとお代表理事に聞きました。
「このランキングでは夜景だけでなく、夜景を楽しめる都市を評価しています。夜景を楽しめる場所や商品、イベントなどの新しい取り組みを進めることで、都市が夜景のレベルを上げているかどうか。観賞地点が豊富でコロナ禍でも市民の観光への意欲を高めようとしているか。それらのニュース性が評価のポイントになっているんです」。
確かに、夜景の美しさだけだったら数年でそれほど変わるものでもなさそうです。より夜景を楽しめる仕掛けを増やし、多様な夜間観光を可能にしているかどうかという都市の施策の面が、ランキングには強く意識されているようでした。
札幌市では新たな夜景を楽しめるような仕掛けづくりを新型コロナウイルスの感染拡大中も進めていました。2020年夏からは札幌市中央区の大倉山ジャンプ競技場のリフトの運転を、従来の午後6時までから延長し、午後9時までにしました。その結果、こんな夜景を多くの人が見られるようになりました。
山頂からは正面にライトで照らされた大通公園が見えます。その姿はまるで飛行場の滑走路のよう。見る場所によって異なる姿の夜景が見られることも、大都市・札幌の夜景の魅力なのかもしれません。
一方で、北海道で夜景と言えば、札幌ではない別の都市がまず頭に浮かびます。函館市です。函館山からの夜景は、神戸市の摩耶山、長崎市の稲佐山からの夜景と並んで、ずっと「日本三大夜景」に数えられてきました。
街の左右に海が広がる独特の地形もあって、函館山の上からは、他の都市にはない素晴らしい夜景を体験することができます。
しかし、残念なことに「日本新三大夜景」のランキングでは、函館市は毎回順位を落としています。
2015年は4位だったのですが、18年は6位、22年のランキングでは8位でした。
もちろん、あまりうれしい評価ではないようです。函館市観光企画課に受け止めを聞くと、
「ランキング商法ですからね。目安ではあるけど、それがすべてではないでしょう。何をもって評価しているのかよくわからないし、分析も特にしているわけではありません」
とコメント。はっきり言って不服そうです。
函館市も何もしていないわけではありません。2000年代半ばから、市が一部費用を負担して函館山のふもとにあたる地区の30カ所弱の施設に照明設備を付けるなど、夜景観光を支援してきています。さらに、現地で話を聞くと、実はまだ多くの人に知られていない函館の夜景があることも分かってきました。観光企画課も「年に数回。一番見られるのは6月上旬でしょうかねえ」と思わせぶりです。
え!?まさに今の時期ですが…。「季節によって、時間によって、函館山は表情が違った夜景が見られるんですよ」(同課)とランキングに現れない価値を訴えていました。
それにしても、各都市が積極的に夜景の美しさを競っている姿はちょっと驚きでした。どうして各都市は夜景観光に力をいれているのでしょう。直近の「日本新三大夜景」でトップだった北九州市、そして、同じ工業都市として一緒に工場夜景をPRしてきた室蘭市にも話を聞いてみました。
空港からドーン、北九州市のすごい「夜景推し」
北九州市の玄関口、北九州空港の到着口には、こんな大きな掲示があります。
工業都市のイメージが強い北九州市。九州について知識が乏しいためか、あまり観光都市の印象はありませんでしたが、最近になって一気に夜景観光に力を入れているそうです。
「市の郊外にある皿倉山からの夜景については一定の評価が以前からありましたが、工場夜景にまずスポットを当てて、2014年から工場夜景クルーズの定期便を始めました。さらに、力を入れ始めたのは第2回の『日本新三大夜景』に選ばれた2018年からです。この年から小倉城や若戸大橋、19年からは門司港駅などのライトアップを始めて、夜景スポットを増やす取り組みを始めています」(北九州市観光課)
皿倉山を登るケーブルカーの運転日を増やすなどで、夜景観光を促進しています。18年度までは土日祝日とイベント開催時のみでしたが、19年度からは金曜日も運転を始め、20年度からはコロナ禍にもかかわらず、火曜日以外は原則、夜間運行をしています。
なぜ、これほど夜景観光に力を入れるのでしょうか。北九州市観光課はその波及する経済効果の大きさを指摘しています。
「夜景を見るためには、夜に北九州市にいなくてはならず、宿泊観光につながるんです。夜型の観光の場合、宿泊だけでなく夕食も市内でとることが多くなるため、大きな経済効果が期待できるんです」(北九州市観光課)。
実際に北九州市の宿泊客数は「日本新三大夜景」に選ばれる前年の17年には186・2万人でしたが、観光名所のライトアップなどの施策を進めた2019年には192・9万人まで増えています。現在はコロナ禍の影響が出ていますが、市では夜景観光推進の効果は着実に出ているとみています。
札幌市にも同様の期待があります。「夜景観光によって滞在日数を伸ばす効果が期待できます。市内での宿泊が長くなると、市内での消費額アップにつながります。夜景は付随する経済効果が大きいのです」(観光・MICE推進課)
加えて、夜景観光を重視する背景には、フェイスブックやインスタグラムなどのSNSの利用の普及があるといいます。「夜景スポットでは多くの人が写真を撮って、その写真をSNSで主体的に発信しています。写真が撮りたくなる夜景スポットを増やすことは、それだけSNSでの札幌の発信につながるんです」。
札幌市は夜景スポットで写真に撮りたくなるようなモニュメントの整備にも補助金を拠出することにしています。たくさんの「映えスポット」を設けることで、より多くの発信を生みたい考えです。
北九州1位に刺激?道内夜景都市のダークホースは「室蘭」
「北九州市はついに『日本新三大夜景』のトップですからね。ニュースで知って、ちゃんとお祝いを贈らせていただきましたよ」というのは室蘭観光協会の仲嶋憲一事務局長です。多くの工場が立地する室蘭市は2011年から北九州市、川崎市、三重県四日市市と「工場夜景サミット」をスタートした経緯があります。
「工場夜景にはパイプやタワーなどのパーツが多く展開されています。街の夜景とはまた違った印象を受けることから、一緒に盛り上げて新しい観光資源にしようと取り組みを始めました」
現在、サミットに参加する都市には千葉市や静岡県富士市、堺市なども加わり12市に増えています。今年10月上旬には室蘭市で工場夜景サミットが開催される予定になっています。
しかし、工場夜景を「売り」にしてきた室蘭市に試練が訪れます。敷地内に1万3千球の照明をつけ、室蘭市の工場夜景の中心を担ってきたJXTGエネルギー室蘭製造所(当時)が2019年3月末に石油化学製品の製造から撤退。工場施設の保安のためにつけていた照明を、一部を除いて7月末に消灯してしまったのです。
工場夜景の迫力が損なわれてしまいましたが、自らも夜景観光士の資格を持つ仲嶋さんは諦めていませんでした。「日本製鉄の製鉄所があるほか、白鳥大橋や測量山のライトアップなど室蘭ならではの観賞ポイントが多くあります。夜景をPRして、少しでも室蘭に滞在する時間を長くし、足を止めて見たいと思ってもらえれば」。
室蘭観光協会ではJXTGエネルギーの製造所の消灯前まで運行していた夜景見学バスの復活に乗り出しています。今秋に実証ツアーを予定し、公共交通機関が少ない街で夜景観光の起爆剤にしたいと考えているそうです。
北九州市も工場夜景のPRからスタートし、多くの夜景スポットを創り出すことで、全国トップまで駆け上がりました。工場だけじゃない、新しい夜景の楽しみ方を繰り出していくことで、3年後の「日本新三大夜景」の選定に向けて、室蘭市は道内のダークホースになるかもしれません。
年に数日、幻の夜景「霧の函館市」
ランキングの低下に話が及び、ちょっと嫌な空気も流れた函館市観光企画課での取材。「ランキングを上げようと思っているわけじゃないんですよ」という前置きの後、取材の後半で井本剛志課長が見せてくれた写真に思わず感嘆の声を上げてしまいました。
函館市では5月から7月にかけて気温差が大きい日には、霧が出やすくなるのだそうです。街に霧が出ている日は、函館山の上から見ると、街の上にレースがかかったような夜景が望めるのだそうです。
「函館市は新しい夜景ポイントを増やすような政策はしていません。でも、夜景にはまだまだ知らないことがあるんです。霧の夜景は年に数日ですがね、いろいろな表情があるんですよ」
取材の後、暗くなってから函館山に登ってみましたが、残念ながら霧は現れてくれませんでした。
でも、函館山から見た夜景は写真で見るよりも何倍も美しく感じました。その時、その季節にしか巡り会えないからこそ、オンリーワンの夜景が心に刻まれるのかもしれません。
新型コロナウイルスの感染拡大による行動制限がなくなり、観光目的の人の動きも少しずつ戻り始めています。暖かくなってきた初夏の北海道。まだまだ知らない夜景を探しに、気になるスポットを訪ね歩いてみませんか?
(参考:北海道新聞電子版)
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