スポンサーリンク

なまらあちこち北海道|刑事コンビシリーズの人気作家まさきとしかさん、新作刊行

この記事を読むのに必要な時間は約 4 分50 秒です。

「三ツ矢&田所」の刑事コンビが活躍するミステリー作家・まさきとしかさんの最新作が刊行されました。傑作ミステリーの秘密や小説への思いなどを聞きました。

刑事コンビシリーズの人気作家まさきとしかさん 創作のベースには「怖さ」

 巧みな謎解きとともに、人間の心の闇を深く描くミステリーで注目される、札幌在住の作家まさきとしかさん(58)。「三ツ矢&田所」という刑事コンビが活躍するミステリーシリーズが代表作で、このほど第3作の「あなたが殺したのは誰」(小学館文庫)を刊行しました。
 第1作「あの日、君は何をした」、第2作「彼女が最後に見たものは」とシリーズ累計52万部(2月末現在)と大ヒット。「読者を失望させないよう人物像、背景、プロットなどつくり込んだ全ての持ち駒を出し尽くす」と読者ファーストのまさきさんですが、実はキャリアのスタートは純文学。傑作ミステリー創作の秘密や、小説への思いなどを聞きました。
「三ツ矢&田所の刑事コンビシリーズ、多くの方に読んでいただけて、シリーズ化できた。本当に感謝です」と話すまさきとしかさん=インタビュー写真はすべて植村佳弘撮影

「三ツ矢&田所の刑事コンビシリーズ、多くの方に読んでいただけて、
シリーズ化できた。本当に感謝です」と話すまさきとしかさん

 まさき・としか
 1965年、東京生まれ、札幌育ち・在住。広告業界のコピーライターなどで活躍し、1992年に文学界同人雑誌優秀作、1994年に第28回北海道新聞文学賞佳作、2007年に「散る咲く巡る」で第41回北海道新聞文学賞本賞を受賞。2008年、書き下ろし作品集「夜の空の星の」で作家デビュー。母と子の愛憎がテーマの「熊金家のひとり娘」や母の過剰な愛ゆえの悲しみを描いた「完璧な母親」、死んだはずの父が変死体で見つかる「ゆりかごに聞く」、無差別殺傷事件に潜む人間関係をえぐる「レッドクローバー」、個性的なきょうだいのからみがコミカルな「玉瀬家、休業中。」など著書多数。北海道新聞読書欄で「まさきとしかの読まさる書かさる」連載中。

書きたいのは「救いのない」人間の不可解さ、不条理さ

 ――まさきさんのミステリー作品には独自の世界があると思います。複雑にからむ時間と空間を手玉に取り、どんでん返しに持ち込む緻密なストーリー、人物の造形と心理を深く描く表現力。作品に一貫するのは、母子や家族という人間が逃れられない宿命的な関係にある悲しみやゆがみへの視線ですね。怖いもの見たさ、とでも言うのでしょうか、引きつけられます。
 「私の作品は怖さ、恐ろしさがベースにあるのです。一番書きたいのは人間のミステリー要素である不可解さ、不条理さ。私たちは普段、人間のそうした部分に気がつかないよう、見たくない、信じたくない、という姿勢で生きています。だから人間が当たり前に生きる素晴らしさに気づかない。当たり前の日常、うんざりする退屈さを繰り返す日々が、いかにもろく、奇跡の上に成り立ち、壊れやすいか、それを知ることは恐ろしいですが、読んでくれた人に伝われば、と思います。
 そして人間は環境次第で、本来やさしい人も残酷になったり、本当に救いのない人生を送ったりする現実があります。だから私は物語にあえて分かりやすい『救い』は入れたくないのです」

刑事コンビのミステリーがターニングポイントに

 ――そんなまさきミステリーの代表作として話題なのが2020年に第1作が登場した三ツ矢&田所刑事コンビシリーズ。第1作は「小説の価値観が一変する極ミス(極上ミステリー)」と啓文堂書店文庫大賞に選ばれ、23刷りを重ねました。第2作も「ミステリーの底なし沼に引きずり込む」などと好評で、5刷り。
 そして最新の第3作「あなたが殺したのは誰」は初刷り7万部。発行元の小学館によると、「ミステリー小説で近年異例の大ヒット」だそうですね。
三ツ矢&田所刑事が活躍するシリーズ3冊。左から「あなたが殺したのは誰」(990円)、「あの日、君は何をした」(792円)、「彼女が最後に見たものは」(858円)=いずれも小学館文庫

三ツ矢&田所刑事が活躍するシリーズ3冊。左から「あなたが殺したのは誰」(990円)
「あの日、君は何をした」(792円)、「彼女が最後に見たものは」(858円)

 ミステリーを書きたかったこともあります。母子や家族の愛憎、葛藤など深く描いたミステリーが評価され、何冊か作品を出す中で、もう一歩、ミステリー要素を強める警察小説を書こうと思いました。謎や真相を事件としてわかりやすく描くことで、一度ページをめくったら最後まで読むのが止まらない小説を書きたかったのです」
 「刑事コンビにしたのは2人の視点で描いた方が物語に奥行きが生まれると考えたからです。最初に三ツ矢という刑事のキャラクターができあがりました。20年近く事件捜査一筋で素晴らしく有能だが変わり者。そしてもう1人の視点で、自らを凡人と認める田所という若い刑事を対照的なキャラクターの相棒にしました。
 田所が見る風景、そして田所が三ツ矢のフィルターを通して見る風景、この違いを描くことで、事件や出来事が多面的で、見る者によって全く別の風景を書くことができました。テレビドラマ『相棒』のように長く愛される『バディもの』を書きたいという憧れもありました」
「警察小説を書くにあたり、警察の仕組みや動きなど徹底的に調べて、現実離れした小説と思われないようにしています」と話すまさきさん

「警察小説を書くにあたり、警察の仕組みや動きなど徹底的に調べて、
現実離れした小説と思われないようにしています」と話すまさきさん

2人の刑事が作者を離れて成長、時空を超えて物語をつむぐ

 ――三ツ矢&田所という刑事コンビ、すっかり人気者になりました。
 「主人公が魅力的ならシリーズ化になるかも、との思いはありました。東野圭吾さんの『加賀恭一郎シリーズ』など既存の人気キャラクターとかぶらないように研究もしました。結果として1作目が人気となり、書き続けられるようになりました。今回、新作を待つ読者を裏切らないよう、前2作に引きずられない、まっさらな小説を書くつもりで人物や背景の作り込み、シーン設定、プロットなど考えた全てを出し惜しみせずに使い切り、長編の一冊に収めました」
 「三ツ矢&田所の刑事コンビを信じて書き続けると、2人から物語が降りてくる」と笑うまさきさん

「三ツ矢&田所の刑事コンビを信じて書き続けると、
2人から物語が降りてくる」と笑うまさきさん

■ももクロに癒やされながら、常に新しい挑戦を意識

 ――今、漫画や小説のテレビドラマ化で原作の扱いが問題になっています。
 「私にもドラマや映画の話が持ち込まれて、台本を見せられることがありましたが、結果的に全て断りました。配役を想定するタレントに合わせて主人公の年齢を変えることが多い。刑事コンビの年齢差はその関係性にも影響する人物像の生命線。守られないと読者をがっかりさせてしまいます」
ももいろクロ―バーZファンを指す「モノノフ」を自任するまさきさん。「『ももクロ』デビューが私の作家デビューと同じ08年5月なのもうれしいの」

 北海道を舞台にした、さらなる物語を期待しましょう。
(参考:北海道新聞ニュースレター)
【スポンサーリンク】

コメント

タイトルとURLをコピーしました