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なまらあちこち北海道|北海道はしょうゆも出汁が決め手

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北海道はしょうゆの味も「だし」のうまさにによって消費が伸びているそうです。ではどんなだしが好まれるのでしょうか。

北海道はしょうゆも「だし」が決め手

北海道内で多く販売されている「だし入りしょうゆ」

北海道内で多く販売されている「だし入りしょうゆ」

 これらの商品は「しょうゆ」なのでしょうか?
 それとも「めんつゆ」なのでしょうか?
 道外出身の私は、北海道にやってきたばかりのとき、棚の前でしばらく立ち止まってしまいました。

 

 刺し身に付けたり、焼き魚にかけたりして使うしょうゆですが、北海道の売れ筋は、ほかの地域とはちょっと異なります。しょうゆに昆布だしを混ぜて、だしのうまみをまとわせた「だし入りしょうゆ」が高い割合を占めています。

 

 トモエ印のしょうゆを販売する福山醸造(札幌)では、1991年に「日高昆布しょうゆ」を発売しました。「しょうゆは各地で地場のメーカーが強い商材です。しかし、北海道の市場では、当時からキッコーマンやヤマサ醤油(しょうゆ)などの大手が強く、普通のしょうゆの伸びしろが乏しかったんです。地元産の原料として昆布だしをしょうゆに入れて、だしの味を前面に出した味わいによって違いを打ち出しました」(広報担当課長の猪股美晴さん)
 福山醸造が「日高昆布しょうゆ」を商品化するとき、一つ懸念があったそうです。だしを加えると、しょうゆの割合が薄まるため、塩分濃度が低下してしまうのです。

 

 「通常のしょうゆの塩分は16%ほどですが、昆布しょうゆの塩分は13%と低くなっています。北海道民は濃い味が好きな傾向があります。塩味が弱くなることで受け入れられるのか、不安がありました」
福山醸造グループのしょうゆの製造工程(札幌市東区)=福山醸造提供

福山醸造グループのしょうゆの製造工程(札幌市東区)=福山醸造提供

 しかし、「日高昆布しょうゆ」をはじめとする「だし入りしょうゆ」は北海道内のしょうゆの市場でヒット商品になっていきます。現在、福山醸造が販売している家庭用しょうゆの6~7割が「日高昆布しょうゆ」なのだそうです。「昆布しょうゆはリピーターが多い商品です。だしの味が強く、塩分が控えめの商品の味わいに慣れてしまうと、一般的なしょうゆは少し塩辛く感じてしまうそうです」(猪股さん)

 

 全国でしょうゆを販売する大手のヤマサ醤油(千葉県銚子市)も、「だし入りしょうゆ」である「北海道昆布しょうゆ」が、北海道ではメインの商材になっているそうです。北海道限定の商品ではないのですが、「9割以上は北海道で販売しています」(札幌支店)といいます。

 

TV放送で電話がパンク、ロングセラーに

 昆布しょうゆを販売する企業はいずれも、しょうゆの味わいとともに、昆布だしの風味の高さを競っています。
 1990年に「だし入りしょうゆ」を発売し、「全国初のだししょうゆ」とうたっているのは、根室市の歯舞漁協が販売している「はぼまい昆布しょうゆ」です。

 

歯舞漁協が販売する「はぼまい昆布しょうゆ」

歯舞漁協が販売する「はぼまい昆布しょうゆ」

 漁協でしょうゆを仕込んでいるわけではありません。しょうゆの醸造元に原料となる昆布を提供し、相手先ブランドによる生産(OEM)で製造しています。

 

 地方の漁協が、本業ではないしょうゆの販売に取り組んだきっかけは、30数年前。最初のOEM先からの「持ち込み」だったそうです。

 

 しょうゆの醸造元の社長が自社のしょうゆに昆布を漬けて、昆布を売っていたそうです。昆布を売るだけでなく、漬けていたしょうゆの方も味見をしてみたら、これがなんともうまかった。そこで、「こういうしょうゆを漁協でぜひ、取り扱ってほしい」との依頼を受けたそうです。

 

 当初は2人1組で歯舞漁協の職員が全道の漁協を中心に回って、売り歩いたそうです。
 昆布のうまみをまとった甘みのあるしょうゆは次第に評判になっていきます。そして、発売から2年後、全国放送の情報番組に取り上げられたのを機に全国にその存在が知られるようになり、一気に人気が爆発しました。

 

 三戸正己専務理事は当時を振り返ります。「あのときは大変でした。放送を見た人から電話が殺到し、1週間くらい電話がパンクしてしまいました。放送後、あまりに電話がつながらず、『組合で何か起こっているのでは』と心配した組合員が不安から訪ねてくるほどでした」
 「はぼまい昆布しょうゆ」を中心とした歯舞漁協の昆布しょうゆシリーズの販売量は一気に増えます。1996年度の182万リットルがピークとなり、その後、販売量は下降していきます。大手しょうゆメーカーが「だし入りしょうゆ」の市場に参入し、競争が激化したことが要因です。さらに、2006年には醸造元が製造を続けられなくなり、「はぼまい昆布しょうゆ」は存続のピンチに立たされます。

 

 

 「漁協が続けるにはリスクが大きすぎる」という撤退論も出たものの、せっかく育てたブランドです。大手メーカーにOEMを依頼し、現在はだしの取り方などを工夫し、競合品よりも付加価値の高い商品として販売を続けています。売上高はピーク時の3分の1ほどにとどまりますが、北海道の家庭に定着したロングセラーとして、販売を続けています。

 

 地元産の「だし」を加えることで、独自の市場を構成してきた北海道のしょうゆの市場。刺し身、すし、焼き魚に煮物-。日本料理の多くに使われるしょうゆは、家庭での食卓の味を決定づける重要なアイテムです。

 

 毎日の食生活になくてはならない調味料のはずなのですが、2022年から続く食品の価格高騰は、北海道の消費者のしょうゆの購買行動にも、影響を与えはじめています。

 

減少激しいしょうゆ市場

 全国のしょうゆの出荷数量は30年ほど前からずっと右肩下がりが続いています。農林水産省の統計によると、2022年度は70万キロリットルを下回る水準まで落ち込んでいます。実に1950年度以来、72年ぶりの水準です。

 

 

 見事なまでに右肩下がりのグラフです。ここ10年だけをみても、市場規模は13%も縮小していました。
 大手しょうゆメーカーなどで組織する日本醤油協会にその要因を聞きました。「人口減や食の多様化などの影響がありますが、冷凍食品の製造拠点が海外に移り、現地で仕入れたしょうゆを使う機会が増えたことも背景にあります」。しょうゆ市場の長期的な縮小傾向の要因は一つではなく、多くの要因がからみあって、しょうゆの需要減につながっていると話していました。

 

 さらに、総務省「家計調査」で、北海道の世帯のしょうゆの購入数量と平均価格をみました。
 2022年は価格が大幅に上昇しています。それに合わせるように購入数量が減少していることがわかります。

 

 家計調査では「だし入りしょうゆ」も「しょうゆ」に含んでいます。100ミリリットルあたりの平均価格は、21年は33・97円でしたが、22年は41・67円となり、2割以上上昇しました。一方、1世帯あたりの年間購入数量は18%減っています。全国平均でも平均価格が16%上昇し、購入数量は逆に16%減っています。

 

 「22年には大豆や小麦などの原材料だけでなく、容器や流通コストなども引き上がったため、複数回値上げをしたメーカーもありました」(日本醤油協会)。値上げの影響で、30年来続いてきた「しょうゆ離れ」がさらに加速する懸念も強まっています。

2016年設立、縮小市場に挑む「クラフトしょうゆ」

 金属製の銀色のふたをずらすと、平たい容器の中に、仕込み中の赤みがかったしょうゆが顔をのぞかせます。
 空知管内栗山町に2016年に設立された蝦夷ノ富士(えぞのふじ)醸造。代表の池下雄介さん(37)は、米こうじを加えることで、しょうゆにうまみを加える作業をしていました。

 

しょうゆの仕込み作業をする蝦夷ノ富士醸造の代表、池下雄介さん

しょうゆの仕込み作業をする蝦夷ノ富士醸造の代表、池下雄介さん

 米こうじを作る実家から独立し、栗山町に新たな蔵元を設けました。米こうじは自らの手で作り、しょうゆに加えることで、味に丸みをもたせています。発酵した米こうじが、うまみを引き出していますが、あまりにしょうゆのうまみが強すぎると、食材の味を弱めてしまいます。そのバランスにこだわりながら、こうじの粒をつぶさないように、慎重にへらを使ってかき混ぜていました。

 

 代表の池下さんが1人で製造するため、1回の仕込みで造るしょうゆは100リットルほど。年間の製造量も3千リットルにとどまります。小さな規模の生産をする「クラフトしょうゆ」は、300ミリリットルのビン入り1本の希望小売価格を961円に設定した高級しょうゆでもあります。製造過程で使った米こうじも「しょうゆこうじ」として648円で販売しています。

 

 その味が評価され、最近は札幌やニセコ地域の高級ホテルのレストランや北海道内の有名料理店などでも使われています。業務用の販売量が、半分ほどを占めているそうです。
蝦夷ノ富士醸造が販売する「しょうゆ」(右)と「しょうゆこうじ」

蝦夷ノ富士醸造が販売する「しょうゆ」(右)と「しょうゆこうじ」

 ただ、全体の販売量が縮小しているしょうゆ市場において、高い質の商品によって、新たな市場を築こうとしている蝦夷ノ富士醸造のような例は「まれ」です。全国のしょうゆを製造する企業の数をみると、市場の縮小に合わせるように、減少が続いています。

 

 

 北海道の海産物も、畑で採れる豊かな実りも、多くの料理で味付けに使われるしょうゆとともにいただいています。
 「北海道の食材はとてもおいしいのです。でも刺し身の質や鮮度にはこだわっても、それにつけるしょうゆにはあまりこだわっていない気がします。少しずつ味を知ってもらって、北海道の食材に合う味のしょうゆを造っていきたいと思っています」(蝦夷ノ富士醸造の池下さん)

 

 「だし入りしょうゆ」がスタンダードになり、本州以南とは異なるしょうゆ市場を築いてきた北海道。地域のおいしいものに合わせて、いろいろなしょうゆが競い合うようになれば、食文化の多様性はさらに高まりそうです。

 

(参考:北海道新聞Dセレクト)

 

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