延長十回からのタイブレークとなった春の全道大会1回戦の北海―遠軽戦。
逆転サヨナラ3点本塁打を放った北海の熊谷陽輝選手(背番号3)をベンチ前
で迎える選手たち=5月25日、札幌円山球場(石川崇子撮影)
タイブレーク、劇的展開
試合の早期決着を図るタイブレーク制度は、選手の(けがなど)障害予防などを目的に2018年春の選抜大会から導入。同年夏、甲子園大会で初めて行われました。延長十二回までに決着がつかない場合、十三回から走者を置き、無死一、二塁の状態で攻撃を開始していましたが、昨年末、日本高野連が「投手の投球制限や、健康管理、夏の暑さ対策などを加味した」として、開始イニングを十回に変更することを決めました。
すると早速、今春の全道大会で2試合行われました。1回戦の北海―遠軽戦(延長十回、10―9で北海が勝利)と準決勝の北海道栄―立命館慶祥戦(延長十回、8―7で北海道栄が勝利)で、特に北海―遠軽戦は壮絶な幕切れとなりました。
5―5の十回無死一、二塁で開始。送りバントなどさまざまな作戦が考えられる中、表の攻撃の遠軽が強攻策で4点を奪うと、裏の攻撃の北海は敵失と適時内野安打で2点を返しました。なお2死一、二塁、4番・熊谷陽輝選手(3年)が左翼スタンドへ逆転サヨナラの3点本塁打。10―9で勝利した北海ベンチからは選手が飛び出し、まるで夏の甲子園出場を決めたかのような歓喜に包まれました。
タイブレークの延長十回、逆転サヨナラの3点本塁打を放った北海の熊谷陽輝選手
=5月25日、札幌円山球場(石川崇子撮影)
十回から「別の展開」
それぞれの指揮官はベンチでどのように考えていたのでしょうか。北海の平川敦監督は「九回までの流れが切れて、(十回からは)別の展開になってしまうと感じました。(今回は)4点差をつけられ、打っていくしかない状況でした。送りバントで走者を進めるか、打たせるかは(その時の)点差や(攻撃が)表か裏かで変わって来ると思います」と語りました。
伝統校の北海にとっても公式戦でのタイブレークは初めて。今後に向けて、「タイブレークの練習は必要ですか?」と尋ねたところ、「練習試合では経験がありますが、やはり(公式戦とは)緊張感が違います。練習は特に考えてないですね」と返ってきました。
延長十回、タイブレークの末に敗れた遠軽の選手たち
=5月25日、札幌円山球場(石川崇子撮影)
「送りバント考えず」
フルスイングを徹底する遠軽は送りバントをせず、2安打と犠飛などで4点をもぎ取りました。遠軽の阿波克典監督は試合後、「バントは考えていませんでした。選手にはタイブレークだと意識させず、『無死一、二塁だぞ』と(目の前の場面に)集中させて打たせました」と振り返りました。
一方で「九回で試合が1度リセットされる」と北海の平川監督と同様の受け止めを口にしました。「(強豪の)北海とタイブレークまで戦えたことを糧に、夏までにタイブレークの練習を含めて総合力を高めていきたい」とも話しており、課題に向き合う姿勢を示しました。
■北海道勢、甲子園で初のタイブレーク
タイブレークで思い出されるのは、2018年の夏の甲子園大会です。実は、甲子園大会で初めて経験したのが旭川大学高(北北海道)でした。相手は佐久長聖(長野)。延長十二回でも決着がつかず、春夏の甲子園で初のタイブレークに突入。十四回、4―5で惜敗しました。
2018年夏の甲子園大会初戦・佐久長聖(長野)戦で、延長十四回
タイブレークの末に敗れた旭川大学高の選手たち=8月6日(小松巧撮影)
この時の采配について、旭川大学高監督だった端場雅治さんに昨年、聞いたことがあります。当時、タイブレークの練習を何度も行っていたそうです。ただ、「ランナーが誰で、バッターが誰でと、バリエーションを全部やっていたわけではありませんでした」。裏の攻撃だった旭大高は十三、十四回とも無得点。十四回表に失った1点を逆転することはできませんでした。
特に1点を追う十四回は打順の巡りが良く、後にプロ野球・広島に入団した4番の持丸泰輝選手が無死一、二塁からの左打席に入りました。サインは送りバントでしたが、初球を三塁側へファウル。2球目はボール。カウント1―1からの3球目、たたきつけた打球は三ゴロに。三塁手が三塁を踏んで二塁走者を封殺し、1死一、二塁となりました。後続も併殺打に倒れ、試合は終わりました。
2018年夏の甲子園大会初戦、延長十四回タイブレークの末に敗れ、
ベンチ前で甲子園の土を集める旭川大学高の選手たち=8月6日(小松巧撮影)
バントかヒッティングか
端場さんはその場面を思い返しながら言いました。「(2球目から)打たせたんですが、バントのサインを(1球目に)出したばかりに(持丸は)進塁打を打とうとしたんですよね、小さく。そうではなく(最初から)打てと指示していたら、もっとちゃんと振ってヒットになったのか。(あるいは)1球目にバントのサインを出したのなら、最後までバントをさせれば良かったか。そういう反省はあります」
刻一刻と状況が変わる中、大舞台で難しい判断を迫られた様子がひしひしと伝わってきました。では、どんな対策が考えられるのでしょうか。端場さんが感じた思いがヒントになるかもしれません。「何となく無死一、二塁から始める練習はあまり役に立たないなと思いました。ランナーが誰で、バッターが誰で、こういう作戦になるというところまで練習しておかないと、タイブレークの練習とは言わないんだなと感じました」。タイブレーク開始が十回に早まったことで、夏の大会でも増加が予想されます。各校がどう備え、どう戦うのか、見どころかもしれません。
継続試合導入、無念のノーゲーム解消
継続試合は、天候不良などで試合が中断した場合、翌日以降、中断された時点から続きを行うものです。これにより、試合が成立する七回終了前に降雨などを理由に打ち切る「コールドゲーム」や無効試合となる「ノーゲーム」がなくなります。再試合に伴う選手負担の軽減などを目的に2022年に日本高野連が導入を決め、昨年夏は35の地方大会で導入されました。
ノーゲームとなり、一礼する駒大苫小牧の選手たち
=2003年8月8日、阪神甲子園球場(浜本道夫撮影)
甲子園ではこれまで、北海道のチームが何度か降雨ノーゲームを味わっています。最も記憶に残っているのは2003年夏の甲子園1回戦、駒大苫小牧(南北海道)の試合でしょう。倉敷工(岡山)と対戦、四回途中まで8―0とリードしながら降雨ノーゲームとなり、再試合では2―5で敗れる無念な結果となりました。
2021年夏の甲子園1回戦でも、帯広農(北北海道)―ノースアジア大明桜(秋田)戦が0―5だった四回終了後に降雨で中断。そのままノーゲームとなり、再戦は2―4で惜敗しました。
降雨で中断となり、ベンチでグラウンドを見つめる帯広農の選手たち
=2021年8月12日、阪神甲子園球場(松本奈央撮影)
道高野連は今春から継続試合を導入。旭川支部予選の旭川商―旭川西戦が降雨による
悪天候のため六回途中で中断し、道内初の「継続試合」となりました
(試合は旭川西が7―0で七回コールド勝ち)。
3年前、新型コロナウイルス感染拡大の影響で中止となった夏の甲子園大会と地方大会に代わる、道高野連独自の大会として開かれた夏の南北海道大会。第3試合で乱打戦となった2回戦の札幌第一―立命館慶祥戦は八回日没コールドゲームとなり、10―8で札幌第一の勝利となりました。
この試合、立命館慶祥は九回表の攻撃で10―10の同点に追いつき、なお1死満塁と攻め立てました。しかし、日没が迫り、球が見えにくくなったとして中断。午後6時50分、両チームの攻撃が完了していた八回までさかのぼっての日没コールドゲームで試合終了となりました。
「幻の同点劇」となった横山監督は「あの時は春の大会も中止となり、最後の夏の独自大会でした。中断しての終わりは、監督として納得できませんでした」。継続試合となれば、あの時の選手たちが無念の涙には暮れず、また別の結果になっていたと指揮官は考えています。
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