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石狩浜には「宝物」が漂着する、ということを聞きました。だからそれもあって、漂着物探しをする人が多いとにことです。実際はどうなのでしょう。
なぜ石狩浜は「漂着物探し」の聖地なのか?
道内各地から多くの海水浴客が訪れる石狩浜。夏のにぎわいが遠く去った10月下旬の浜辺で、足元に目をこらす人たちの姿がありました。漂着物を採取・観察する愛好家「ビーチコーマー」たちです。4万年前の噴火でできた軽石、ロシア語が書かれたヘルメット、南の海に生息する「アオイガイ」…。なぜこんなものが転がっているのでしょう。漂着物採取にはどんな魅力があるのか。ビーチコーマーたちと一緒に、「聖地」の一つとされる石狩浜を歩いてみました。
漂流物を採取することを「ビーチコーミング」といいます。英語で「くし」を意味する「Comb(コーム)」には「しらみつぶしに探す」という意味もあり、文字通り浜辺をくまなく探し回るのです。学術研究のほか、欧米では趣味としても定着しているそうです。
「漂着物は渚(なぎさ)の百科事典」「漂着物は海からの手紙」―。石狩浜で漂着物を研究するいしかり砂丘の風資料館の志賀健司学芸員(55)は、海から流れ着いたさまざまな物をそんな風に表現します。「漂着物を調べると、文化や歴史、地球環境などについて楽しみながら考えられる。知的な遊びです」
日本海と石狩川の両方から
石狩浜は石狩川が運んだ砂や、日本海から吹く季節風によって形成された海岸砂丘です。小樽市銭函から石狩市厚田区まで約25キロも続き、ビーチコーミングの適地の一つとされています。
日本海を北上する対馬海流が、南から漂流物を運び、さらに大陸からの西風を受け、多くの漂流物が流れ着くのです。もう一つ大きな魅力は、川を流れてきた物も見つけられること。長さ268キロ、北海道の面積の約6分の1を有する流域面積1万4330平方キロメートルを誇る石狩川を流れてきた漂流物も、石狩湾に放出され、砂浜にたどり着くことが多いといいます。
「海はつながっていますが、日本海とオホーツク海では漂着物は違います。石狩浜は、特に陸や川由来の漂着物が多い」。2012年から石狩浜でビーチコーミングを年1回程度行う道立オホーツク流氷科学センターの桑原尚司学芸員(46)はこう語ります。
札幌からも近い石狩浜では、いしかり砂丘の風資料館が04年から毎年2、3回、漂着物を観察する「石狩ビーチコーマーズ」を開催しています。今年2回目となる10月24日のイベントには、石狩や札幌、北広島や滝川からリピーター13人と初参加の12人が参加しました。
午前9時。集まった参加者を前に、志賀学芸員がマナーや気をつけることについて説明することから始まりました。ビーチコーミングでは漂着物を根こそぎ拾ったり、拾った物を別の場所に捨てたりすることは「ご法度」です。液体入りのポリタンクやガスボンベ、注射器や動物の死骸は危険なため、触れてはいけません。
石炭が見つかりました。石狩川を経由し、空知地方の支流などの流域にある石炭が運ばれてきたとみられます。ビーチコーマーたちの狙いは石炭の中にある、植物の樹脂が化石化した「琥珀(こはく)」です。大きなもので6センチ以上の琥珀が見つかったこともあるそうです。石狩浜では琥珀が発見できるのも魅力の一つです。
直径2、3センチほどのオニグルミも石狩浜ではよく見つかります。川岸にあるクルミの木から流れ出たものです。秋は果肉のついたフレッシュな実があります。一方で、アカネズミがかんだとみられる跡がある殻も見つかります。砂に埋もれ芽が出ることもまれにありますが、成長した例はないということでした。
ただ、歩いても歩いても南の海からの漂着物は見つかりません。「こういうことはよくあります。今日は漂着物自体が少なめ。波の形が違うように、浜の景色は日々違います。そんな目で見ると楽しいですよ」。ビーチコーマー歴15年という札幌の会社員、今井誠一郎さん(63)は話します。
北海道にはいない生き物も?
ビーチコーマーたちはそれぞれのテーマを持って砂浜を歩いています。北広島市から参加した小学校教諭の鈴木陽一さん(40)は、5年前に石狩で教員をしていた時に、ビーチコーミングのとりこになりました。石や鉱石が好きという鈴木さんは「メノウや琥珀を見つけるのが楽しいです。生物や歴史、環境問題を学べる教材です。ただ家にたまりすぎて困っています」と笑っていました。
軽石を見つけた人もいました。ただ、今問題となっている鹿児島や沖縄などの島に漂着した小笠原諸島「福徳岡ノ場」の海底火山で生じた軽石とは全くの別物。志賀学芸員によると、石狩浜で見つかる軽石の多くは4万年前の支笏火山の大噴火の際のものだということでした。
砂浜には異国からの漂着物も流れ着きます。今回はハングルが書かれたカップラーメンの容器、ドレッシングのチューブ、ロシア語が書かれたヘルメットが見つかりました。外国製漂着物の割合はロシアと韓国がそれぞれ4割、残る2割は中国や台湾ということです。時折、フィリピンやベトナムなどからも流れてくるとのこと。石狩浜が海外とつながっていることを感じさせられます。
「どこからやって来たのか」「これは何だろう」―。参加者同士で分析し合うのもビーチコーミングの醍醐味(だいごみ)の一つです。陶器のかけらが見つかると、参加者からは「焼酎のとっくりの一部ではないか。幕末から明治のニシン漁場で、やん衆の人たちが飲んでいたものだと思う」などの意見も出ていました。
「砂浜から顔だけ出ていたので救出しました。絡みついているのはワカメかと思ったら、服でしょうか」。目がクリクリとし、髪の毛は爆発したように逆立っているかわいらしい人形でした。採取したのは中学1年生の息子と参加した市内の会社員、大村崇さん(45)。4年ほど前に、海岸で石を拾ったのを機に、ビーチコーミングを始めました。「最初は石目当てでしたが、次第に海外からの漂着物など知らない物が見つかり、興味がわいてきました」と話していました。
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