スポンサーリンク

なまらあちこち北海道|ソメイヨシノが北へと広がる。地球温暖化?

北海道

この記事を読むのに必要な時間は約 4 分18 秒です。

地球温暖化が機械あるごとに報じられていますが、桜の女王ソメイヨシノにもそのような影響が出ているというお話です。

ソメイヨシノの適地、北へ北へ 気候異変 動植物に何が起きるか

 「ブラキストン線」と呼ばれる動物分布の境界線が津軽海峡にひかれるなど、本州以南とは異なる北海道の自然環境。連載の第4部は気候変動が動植物にもたらす影響と危機に焦点を当てていきます。
 4月23日、日高管内新ひだか町の二十間道路桜並木にも桜前線が到来した。「今年もきれいに咲いてくれた」。この場所を含め、道内各地のサクラを保護してきた樹木医の金田正弘さん(77)=苫小牧市=は満開の木々を見上げて笑みをこぼした。
 直線7キロ、幅36メートルの道路にエゾヤマザクラやカスミザクラなど2200本が咲き誇る道内有数の名所。ただ、そこから少し離れた公園にある10本のソメイヨシノを知る人は多くない。
静内の二十間道路桜並木を長年手入れする樹木医の金田正弘さん(石川崇子撮影)

静内の二十間道路桜並木を長年手入れする樹木医の金田正弘さん(石川崇子撮影)

 10本は30~40年前に植えられたとされ、金田さんは町職員らと病気にかかった枝の除去や剪定(せんてい)をしながら、成長を見守ってきた。ソメイヨシノはエゾヤマザクラなどに比べ耐寒性に劣る。だから数年前まで花付きは良くなかった。
 そのソメイヨシノが「見違えるようにきれいに咲くようになってきた」と金田さんは言う。今年は渡り鳥のウソに花芽を食べられ、上半分に花がほとんどなかったが、昨春は「どのサクラよりも美しく咲いた」。
五稜郭タワーと桜=4月23日、函館市(野沢俊介撮影)

五稜郭タワーと桜=4月23日、函館市

 函館市の五稜郭公園にある約1500本のソメイヨシノも年々美しく咲くようになった。大正初期から1965年ごろにかけて計約1万1千本が植えられたが、かつては寒さによる枯死や病気で伐採される木も相次いだ。
 管理する函館市住宅都市施設公社職員で樹木医の斎藤保次さん(58)は「暖かさだけが要因とは断定できないが、ここ数年で目に見えてソメイヨシノの生育が良くなっている」と話す。
満開となった五稜郭公園内のソメイヨシノを楽しむ市民ら=4月23日、函館市(野沢俊介撮影)

満開となった五稜郭公園内のソメイヨシノを楽しむ市民ら

 なぜ美しさが増すのか。ソメイヨシノの開花メカニズムには、気温が大きく関係している。
 ソメイヨシノの花芽は開花前年の夏にでき、それが秋から冬にかけて成長しないように休眠状態に入る。冬の寒さによって低温刺激を受けることで「休眠打破」と呼ばれる目覚めを迎え、春先の暖かさでつぼみが膨らみ、開花するというサイクルだ。
 開花には一定の暖かさが続くことが必要で、札幌では最高気温が積算で500度に達すると花が咲くとされる。今年4月の平均最高気温は新ひだか町静内で13・7度、札幌と函館で15・7度と、平年を4度前後上回った。
 金田さんは「気温上昇とともに枝が大きくなり、花付きも良くなった。20年以上前はソメイヨシノは道内では無理と考えていたが、劇的に変わった」と話す。
桜が満開になり多くの観光客や市民らが訪れた五稜郭公園=4月26日、函館市(大城戸剛撮影)

桜が満開になり多くの観光客や市民らが訪れた五稜郭公園

 北海道とは対照的に、ソメイヨシノの生育の南限である鹿児島では異変が起き始めている。
 気象庁が鹿児島市の満開を宣言した翌日の4月13日。市中心部のソメイヨシノは一部が花を咲かせたが、つぼみや若葉も目立ち、咲き方がばらついた。30年以上、サクラを研究する森林総合研究所九州支所(熊本)の勝木俊雄さん(56)は「鹿児島では冬の寒さが足りない。サクラがずっと秋だと勘違いし、休眠がうまく解除できていない」と分析する。
満開が宣言された熊本市でソメイヨシノについて語る勝木さん。葉桜が目立つ=4月2日

満開が宣言された熊本市でソメイヨシノについて語る勝木さん。葉桜が目立つ

 「休眠打破」には一定期間、4度前後の低温にさらされる必要があるとされる。気象庁によると、鹿児島の平均気温は今年1月が10・1度、2月が13・5度。両月とも平均気温が氷点下だった函館に比べるとはるかに高い。
 まとまってソメイヨシノが咲く北限は美唄市辺りとされ、勝木さんは「気温上昇に伴ってさらに北へ広がる可能性が考えられる」。
 2100年までの桜前線の予想をシミュレーションした九州大の伊藤久徳名誉教授(気象学)の研究によると、2032~50年には九州南部を中心にソメイヨシノが満開にならない年が出始める。将来的には、ソメイヨシノ開花の南限が北上し、九州南部では咲かなくなる可能性があるという。
満開宣言直後にもかかわらず、花がわずかしか咲いていないソメイヨシノ=4月13日、鹿児島県(森林総合研究所提供)

満開宣言直後にもかかわらず、花がわずかしか咲いていないソメイヨシノ

 今年、鹿児島は3月29日の開花から満開まで14日間かけてだらだらと咲いた。一方で函館では5日間、札幌では6日間でソメイヨシノが満開になった。「開花して5日程度で満開になる北海道は一斉に咲きそろうのが特徴。温暖化が進めば、北海道が日本を代表するソメイヨシノの名所の一つになり得る」。伊藤名誉教授はそう予想する。
 ただ、北海道がソメイヨシノが適地になるということは、この土地に適したサクラの種類が変わっていくことを意味する。
エゾヤマザクラが満開の静内二十間道路桜並木=4月26日(石川崇子撮影)

エゾヤマザクラが満開の静内二十間道路桜並木

 実際、新ひだか町の二十間道路桜並木の6割を占めるエゾヤマザクラは、気温上昇の影響で開花が早まった。金田さんは言う。
 「50、100年先を考えると、この場所はエゾヤマザクラの名所ではなくなってしまうかもしれない。ソメイヨシノがきれいに咲くこと自体はうれしいけれど、それは温暖化の象徴で、恐ろしいとも思う」
 ソメイヨシノが北海道で咲き乱れ、花吹雪が舞う。私たちは、そんな春を複雑な気持ちで見つめるのかもしれない。
(北海道新聞Dセレクト)
【スポンサーリンク】




コメント

タイトルとURLをコピーしました