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なまらあちこち北海道|ヒグマに襲われて死を覚悟|松前町

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「顔がなくなる」「死を覚悟した」―。

7月15日に渡島管内松前町の自宅すぐそばにある家庭菜園で農作業をしていた82歳の夫と78歳の妻が1頭のヒグマに頭部や腕をかじられ、重傷を負った事件がありました。

昨年7月には隣接する同管内福島町でも、高齢の女性が畑作業中に別のヒグマに襲われて死亡しており、人とクマの生活圏が重なっていることが浮き彫りになりました。

近年相次ぐクマによる人身被害は防げないのでしょうか。9月下旬に病院を退院して自宅に戻った夫妻から当時の状況を聞き、クマ対策の課題を探りました。

松前町の自宅で、事件の様子を明かす夫妻

松前町の自宅で、事件の様子を明かす夫妻

 

2人が襲われたのは45年前から大事に活用してきた家庭菜園でした。周囲は山に囲まれ、広さは約50平方メートル。それほど広くはありませんが、2人がジャガイモやトマト、スイカ、カボチャなどを育てるには十分な広さです。

タヌキやキツネなどの害獣対策として、四方は高さ1・2メートルほどの防風ネットで囲み、シカの侵入を防ぐためにロープで補強していました。

 

妻にゆっくり近づき…

最初に襲われたのは妻でした。

2人は7月15日午前9時ごろ、日課の畑仕事を始めました。一段落した正午ごろ、夫は菜園をいったん離れ、片付けや昼食の準備のため、自宅との間を行き来していました。

妻はこの間、畑の入り口付近で休憩しながら友人と携帯電話で短く話をした後、草むしりのため再び畑作業に戻ったのです。

それから約30分後の午後0時半すぎ、妻は山側にある防風ネットの外側の草むらで「ガサガサ」と物音がするのに気がつきました。

最初は「またシカが来たのか」と思い、気にもとめませんでした。しかし、再び「ガサガサ」と聞こえ、視線を向けると、防風ネットの上から身を乗り出すクマの姿が目に入ってきたのです。

クマは鋭い歯を見せ、ゆっくり近づいてきた。妻はとっさに逃げようとして転倒。あおむけになったところ、赤茶色の体毛に覆われた巨体が覆いかぶさってきました。

とっさに手に持っていたクワでクマの口をたたいきましたが、クマはひるむ様子もなく、腕、そして頭部にかみついてきました。

腕はもがれると思うほどの激痛が走り、こめかみは骨が砕けていく嫌な音がし、「顔がなくなっているのでは」と錯覚するほどの絶望感に包まれたと言います。

記者(左)にクマが侵入してきた場所を案内する妻

記者(左)にクマが侵入してきた場所を案内する妻

 

夫は「腕が食べられる」

自宅と菜園を行き来していた夫は、妻の声とは明らかに違ううなり声を耳にし、すぐに異変に気づきました。
「おかしい。畑には妻しかいないはず」

防風ネットの囲いの中に入ると、クマが妻に馬乗りになっている姿が目に飛び込んできました。身長165センチの自分よりも大きく、子グマでないことは明らかでした。

「すぐに間に入らなければ、妻の命はない」
考えるより先に体が動き、とっさに近くに立ててあった長さ130センチ、重さ3キロの鉄製の棒を手に駆け寄り、思い切りクマの後頭部にたたきつけました。「カーン」。金属バットで硬球を打った時にような音が辺りに響き、棒の先端は衝撃で緩やかに曲がってしまいました。

鉄製の棒をたたきつけた時の状況を説明する夫

鉄製の棒をたたきつけた時の状況を説明する夫

 

「人間だったら、大人でも死んでおかしくないくらいの強さでたたきつけた」
こう思いましたが、クマはびくともせず、瞬時に振り向いて前脚で押し倒してきました。

顔を2度かじられ、
「次にかまれたら頭がつぶれて自分は終わりだ」
と死を覚悟したそうです。

無我夢中で左腕を突き上げると、今度はその左腕をがりがりとかじり始め、肘まで飲み込まれた。
「食べられる」
こう思った直後、クマは腕をはき出し、離れて行きました。
「1度に腕を飲み込みすぎて喉を詰まらせたのか、それとも息が苦しくなったのか。偶然が重なって九死に一生を得ました」

夫の左手。手のひらの中央から手首に向かって裂傷の跡が残る

夫の左手。手のひらの中央から手首に向かって裂傷の跡が残る

2人が襲われたのはわずか数分の出来事でした。
クマが山の方へ去っていく気配を感じた妻は、顔面が流血で染まり、視野が狭まりながらも、近くに落とした携帯電話を見つけ、救急車を呼びました。

深刻な爪痕

夫は札幌、妻は函館の病院にそれぞれ2カ月余り入院することになりました。

退院はしましたが、夫は左目を失明し、歩行が困難になるほど体力も低下しました。妻もこめかみの骨を砕かれ、眼球が垂れ下がる重傷を負い、復元手術とリハビリを終えた今も完治していません。

2人ともひっかき傷やかみつかれた跡が腕や脇腹などに残っています。

退院後はしばらく自宅に戻りましたが、夫妻を襲ったクマは駆除されておらず、夫は
「家の周りで草むらを見るたびにクマが潜んでいるのではと思ってしまい、外を出歩けなくなった」
と言います。

深刻な後遺症も抱え、自力で通院することが難しかったため、10月中旬、長年住み慣れた松前町を離れ、息子と娘が暮らす札幌に引っ越しました。

妻は
「この年齢で知人がいない都会生活に適応できるのかは分からない」
と不安な胸の内を明かし、手入れしてきた畑や作物をお裾分けしてきた仲の良い隣人と別れた寂しさを募らせています。

しかし、夫は
「クマに襲われた土地では、恐ろしくて暮らせない」
と言い聞かせています。

襲われた現場を案内する夫妻

襲われた現場を案内する夫妻

前兆はあったか

クマが現れる前兆はあったのでしょうか。

2人は家庭菜園でクマの好物となるジャガイモやスイカなどを育てていましたが、特段のクマ対策はとっていませんでした。半世紀近く住んでいてもクマによる作物の食害もなく、クマに遭遇するのは想像しがたいことだったようです。

自宅奥の道を約200メートル進んだ先にある墓地も、近隣住民がクマが出没する可能性があると警戒していましたが、クマを見たり、体毛など痕跡を見つけたりしたことはなかったということです。

ただ、自宅から1キロほど離れた旧海上自衛隊松前警備所白神支所の近くでは、2020年に支所が廃止される前まで隊員が目撃情報を寄せ、町が箱わなで駆除する事例が毎年のようにありました。

昨年7月には、夫妻が襲われた現場から10キロしか離れていない福島町の畑で高齢女性がヒグマに襲われて死亡する事故も起きています。

こうした周囲の状況は夫妻も認識していましたが、妻は
「クマが山にいることは知っていたし、注意はしていたが、夜間や早朝に出歩いたり、山菜採りなどで山に入ったりしない限りは、襲われるとは夢にも思わなかった」
と振り返る。
「私たちは気付かなくても、クマは私たちを見ていたのだと思う」

記者(奥)に襲われた時の様子を語る夫妻

記者(奥)に襲われた時の様子を語る夫妻

 

渡島半島の生息数は30年で1・7倍

道の調査によると、渡島半島のヒグマの生息数は20年時点で、30年前の1・7倍の1840頭前後にまで増えたということです。

冬眠中のクマを狙う「春グマ駆除」が中止されたことが増加の背景にありそうです。さらに近年は山間部の集落の過疎化で人の生活圏が縮小し、ヒグマの生息域は拡大傾向にあり、畑や山の手入れが手薄になるほどその傾向は強まっているとされます。

一方、クマを駆除できるハンターも高齢化などで少なくなっており、ヒグマによる人身事故のリスクを高める要因にもなっています。

専門家「目撃例少なくても対策必要」

道内の研究者らでつくる「ヒグマの会」の会長の坪田敏男・北大大学院獣医学研究院教授(61)は、今回のようにクマの目撃が少ない地域でも、日常的な対策が必要だと強調しています。

「人間の存在をクマに認識させることが重要だ」
として、山林の近くなどでクマの好物を育てる家庭菜園での作業中は平時からラジオを鳴らしたりすることを提案します。

また、クマを引きつけるコンポストやゴミを放置しないなど、細心の注意を払う必要性があると訴えています。

行政側にも対策を求めています。過疎化とともに山林と人里の間の草木を刈って見通しが良い地帯を整備するなど、クマが近づきにくくする環境づくりが急務だと指摘しています。

こうした対策を進めるにあたっては、クマの生態について、専門的な立場から行政や地域に助言ができる人材の配置が有効だとして、
「地元のハンターとも連携して個体数の管理に取り組むことが被害の防止につながる」
と話しています。

再発防止へ「ハンター待遇向上を」

クマを駆除できるハンターの育成も課題です。道は熟練ハンターが若手ハンターに同行してクマの駆除の技術を伝承する「育成捕獲」の枠組みを設けており、今後はその期間を拡大することも検討している。松前町で襲われた夫妻も国や自治体にクマを駆除したハンターに対する報酬の増額などクマ駆除への支援拡大などを例に挙げ、「自分たちのような被害を繰り返さないでほしい」と悲痛な面持ちで訴えている。

(参考:北海道新聞電子版)

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